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「ありがとうございます」
代金を支払って店の外へ出ると、カロリーナは右手を空に掲げた。
ピンキーリングがきらきらと光っている。
(この国で、うまくやっていけそうな気がするわ)
★
ニコラが初日に説明した通り、研究所の仕事はほとんどが地味なものだった。
魔法の解析や呪文の構築。
古代遺跡から発掘された魔導具の解析。
その日のカロリーナは、図書室で古代魔法文字の翻訳に勤しんでいた。
魔力を持っていないと古代辞書を開くこともできないが、カロリーナにとってはなんら苦ではない。
朝からずっと休まずに文字を追っていると、誰かが向かいに腰かけた。
「仕事の調子はどうですか」
「所長!」
カロリーナは顔を上げて上司を見た。
「おかげさまで、毎日すごく楽しいですわ」
「それを聞いて安心しました。元々、カロリーナさんは公爵家の方だと聞いていましたから、このような作業は苦になるのではと心配していたんです」
「とんでもありません。わたくしは、元々このような地道な作業をしたかったんです。王子殿下の婚約者となった際にその夢は完全に断たれたと思っていたので、今ここにいられること自体が幸せです」
目つきがきついと罵ってくる婚約者。
公爵令嬢として常につきまとう周囲の評価。
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