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それから、彼女の作品を読んでの感想―――そこには褒め言葉しかなく―――が丁寧に述べられ、最後には熱い励ましが添えられた。
同じ形式は、一年生全員に及んだ。
横目にした最下級生それぞれの顔には、喜びと感激が渦巻いていた。が、その中には悲しみの影も、たしかに見てとれた。
顔も声も知らない後輩の、文芸部はじめての作品を、麻希は病床ですべて読んでいた―――。
濃い内容の感想から、作品に通した目は一度や二度ではない―――。
自分よりも遥か彼方上空にあった彼女の人間性に、心の裡で深く頭を垂れた。
今年度最初の作品をパスする最下級生はいなかったので、一年生の彼女らはみんな、何事にもかえがたい贈物を、尊敬に値する先輩からもらうことができた。
つき合いのある二、三年生に対しては、在りし日に起こったそれぞれとのエピソードが披露され、そのときの彼女の心情やら行いやらが、やはり面白おかしく語られた。
場は哄笑が相次いだが、終いに必ず加えられた激励や感謝の言葉で、そっと目頭を押さえる部員もひとりふたりではなかった。
すでに目を通していたのだろう、便箋の文字を読む先生の舌はなめらかだった。またその調子は、「どこか麻希に似ているな……」と思わせもした。それは、先生が彼女の心情に自然と入り込んでいたゆえだったからか……。
メッセージはもちろん、続利にもあてられていた。
ビャッコさんの力によって、文芸部員の、それも部長の位置に続利が据えられたのは、麻希の入院以降のこと。それでも麻希の記憶には、一年生の当初から、同じ部員として活動していた続利が刻まれているはず。
書き替えられた麻希の脳内で、彼女と続利との間にはどんなエピソードが生まれていたのか……。とても興味があった。
が、耳の流れ込んできたのは、続利の作品に対する高評価の羅列だった。
少し残念な気分で聞いていたそのメッセージ内には―――、
《実は勝手にライバル心燃やしていたんだ。そうすれば、もっともっと自分の作品が上達するんじゃないかって思ってね。
でもやっぱり、続利さんには最後まで勝てそうにないな。だって続利さんの作品、私のと違って、どんどんよくなっていくもん。どうやたって、かなわなそうだもん。毎回のポイント数の大差が、物語ってるもんね》
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