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散会を告げた続利の言葉に続いたざわめきが、会合前のそれよりも増して感じたのは、寂寥よりも、自信や勇気を与えてくれた、麻希のメッセージのせいだったと思う。
「ねえ、今日は“海風”にしない」
閲覧テーブルに寄ってきた三年生女子陣の中から、受田が跳ねた声をよこすと、
「あ、うん」
書いていた会合記録から顔をあげた続利は、微笑んで返した。
豊富な種類のカレ―を売物にしている猫柳小路のその店に、彼女たちは月一ほどの間隔で訪れていた。
“海岸通りに建つ”をイメージした、南国要素満載の店内が常時混み合っているのは、カレーに劣らず、トロピカルフルーツやドリンク、また、かき氷にアイスクリームなどのデザート系も、一年を通し、多種多様そろっているからではないか。
「羽厨子くんもいくでしょ~?」
続いた気持ち悪い口調は糊竹のものだった。やつは彼女たちの後ろで首を伸ばしている。
「ぼくはパス」
会合で使った資料書類を整理しながら、ぶっきらぼうに答えた。こっちは執筆で昼食どころではないのだ。
「あ、だけど私、ちょっと用があるから先いっててくれる」
とめたペンのまま続利が投げると、「OK、じゃ、早くね~」と、彼女たちは背を向けた。
「久しぶりにみんなとランチか~。感激至極でござんすな~」
「だいたい、誰もあんた誘ってないんだけど」
「そんな憎まれ口~。どの口が叩くんだ、こりゃ」
「触んじゃないわよ!」
「糊竹、てめえ張っ倒すぞ!」
「張って、張って~。この優くんのすべてを張って~」
といったにぎやかな声が一団から聞こえてきて、そして消えていった。
張るだけじゃなく、殺しちまえ!
心の中でいって書類をそろえていると、おどおどとした声が降ってきた。
「あの~、ちょっといいかな……」
ふり向くと、バックパックを背負った浦和がかたわらに立っていた。
「ああ、なに?」
「あの~……麻希さんの作品のことなんだけど」
「麻希の作品?」
「今度提出しようとしていた作品。書きかけになっちゃったやつ」
「ああ……。それが?」
「完結してないとさ、草紙には載せられない決まりになってるじゃない」
「ああ」
「でも、せっかくの最後の作品なのに、発表できないなんて、可哀想だと思って。だから、なんとかならないか、ずっと考えてたんだ……。
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