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【1】
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ビニール製の紐で編み込んだ、籐に似せた椅子。
ため息が半身を背もたれにゆだねさせると、隙間だらけの脳内がつぶやいた。
―――しょっちゅうこんなことくり返してるな……。
一〇月も後半の、低島屋屋上庭園―――。
いつものテーブルで、夕刻の肌寒さを感じながら眺めるPCモニターは、相変わらず大部分を“白”で埋めている。
あと一月と二週間ほどで、今年度三回目の締切り日―――。
今度こそ完成させ、一二月頭のその日がくる前に、胸を張って提出しようと思っていたビャッコさんとの作品。だが、一度は書いた部分も忘れているところが多々あり、重ねて、
「あれよりももっといいものを!」
眉間にしわを刻んだ彼女からのプレッシャーもあって、思うようにキーは叩かれていなかった。しかも、次回作のテーマ《再生》に合うよう、うまいこと内容を変えていかなければならない。
本日何十回目かの吐息が、赤みを差し始めた空へ目をあげさせた。
こういう状態が続いているということは、もちろんビャッコさんの手助けが露ほどもないからで……。
―――もうあたし、神使じゃないんだから、自分の力でやりなさい。
―――これはあんたのことを思って、心を鬼にしていってやっていることでもある。
尊大に吐かれた台詞は、大いに抗議の気持ちをわかせた。―――が、考えてみれば、いつまでも彼女の力をあてにしてはいられない。……哀しいかな。
また、彼女もすでにモデル業で忙しい日々を送っていたので、作品制作に携わる時間など、ほとんどつくれないのも事実ではあった。
当然彼女は、“伏目白子”になってからモデルのレッスンを始めたのだが、そこはもと神使ということか、あっという間にプロレベルに達し、母以外のスタッフたちを驚かせた。加えて、『WAW MODEL PRODUCTION』の所属になってわずか三週間のうちに、人気女性ファッション誌の新人モデルオーディションを二つ受け、軽く双方合格という快挙も、みなの目を瞠らせた。
その仕事の第一回目はすでに済まされており、編集者や撮影スタッフの評判は抜群によかったという。
それというのも、カメラマンの指示を受ける前に、とても普通のモデルがやりそうもないヘンテコなポーズを次から次へと披露し、結果、大いにウケを誘ったかららしい。
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