婚約者コーダの訪問

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婚約者コーダの訪問

 王に婚姻を与えられた翌日だった。コーダが側付きを連れて、サンの離宮を訪ねてきた。  コーダの大胆な行動に、サンは驚いて言う。  「コーダ様ほどの賢いお方が、まだ婚約式をしていませんのに、若い男の離宮に訪ねてくるなど……」  「私たちは王に命ぜられて婚約者になったのです。来てはいけませんでしたか?」  「いや、駄目とは申しません……。しかし」    頬を赤らめながらコーダが言う。 「私は嬉しかったのです。まさか憧れのサン王子様の妻になれるなど考えもしておりませんでした」 「憧れですか?」 「ええ、王子は全女性の憧れです。サン王子様と一言でいいから、言葉を交わしたいと、皆思っているのです」 「大げさでしょう」 「本当の事です。そして私も、サン王子様をお慕い申し上げておりました」  サンは困ってしまった。  サンにはそう言うたぐいの気持ちが、まだよく分からない。  コーダが言う。  「お庭を、一緒に歩きとうございます」  サンが言う。  「私とコーダ様が、城の庭など一緒に歩けば、目立ってしまいます」    サンは思う。  ――庭など二人で歩けば、後宮中の人間が見物するに違いない。  そうなれば、貴族、王族に、噂が数日中には広まってしまう――  コーダが言う。  「私は、そうしたいのです」  サンは頷く。  聡明で有名なコーダがそう言うのだ。  むしろ、噂にしたいのだろうと、サンは思う。  実際今日のコーダは装いからして違っていた。いつもは地味で、装飾品も控えめだ。レースやリボンなども、ほとんど付けない。  しかし、今日のコーダは、絹のドレスに身を包み、大ぶりのネックレスと、更にお揃いのイヤリングをつけていた。化粧もしっかりとされて、髪は最新の形に整えられていた。玉のあしらわれた簪が、コーダの黄金色の髪によく似合っていた。  サンは改めてコーダを見る。  コーダは、倹約家の父の元で、質素で地味な装いを日頃はしていた。だから気が付かなかったが、こうしてみると美しい娘だった。髪はゴールドで、顔は整い美しい。アーモンド型の目には、長いまつ毛が揺れている。サファイアブルーの瞳は大きく、キラキラと光っていた。背は170センチを優に超えていた。手足や首は長く、デコルテラインは華奢すぎず、かといってガッチリもしていない。ドレスのラインが、とても綺麗に見える体型だった。  サンは思う。  ――コーダ様は、遠目から見ても、相当見栄えがするだろう――  サンが聞く。  「確かコーダ様は、お祖母様が、オルガ共和国出身でしたか?」  コーダが答える。  「左様でございます。私の祖母はオルガ共和国の出身ですわ」  サンが納得して言う。  「だから背がお高いのですね」  コーダが言う。  「トーマ国民は、背の低い者が多いので、私は肩身が狭いのです。でもサン王子は、185センチはおありでしょう?」  サンが言う。  「ええ、あります。ですから、コーダ様の背丈は、私には丁度いい」  そう言いながらサンは、思っていた。  ――だからコーダ様は、他の姫君と違って、顔つきも美しいのか……。オルガ共和国の人々は、総じてトーマ国のものより美しい。エタナラルラ国とはタイプが違う美しさだが……――  例えるなら、エタナラルラ国民は、ガラス細工のような美しさだ。  一方、オルガ共和国民は、言うなれば健康的な美しさだ。  長い手足に、体を覆う筋肉、彫刻のような目鼻、黄金の髪の毛。  エタナラルラが月の女神なら、オルガ共和国の美は、太陽神の美だった。  しかしエタナラルラ国民は年老いると、丸太のように太る者がほとんどだ。  オルガ共和国民は、大人になるにつれ、筋肉太りをして、バッファローのようになるものが多かった。  もちろん、年を重ねても美しい者もいるが、それは努力が必要だ。  サンが腕を差し出して言う。  「では。コーダ姫。エスコートいたしましょう」  コーダがサンの腕に手を添えた。  そして二人は庭へと誘い合う。
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