境界線が越えられない

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「でもまた泣くだろ……お前、泣きすぎてだめだって言って電話してきたろ?もう泣きたくないんじゃないのか?」 「……あれは……酔ってたのと映画見た直後だったから……」 「何か、アクションとかのスカッとするような映画の方が良くないか?このまま続けて泣く映画見ても平気か?」 「そうか?ん〜そうだな……あ、とりあえず食えよ、あと飲もう」 「食うけど、飲まないよ」 「……なんで?」  相良はピザを手を伸ばし、ちらりと久保を見た。 「もう、間違えたくないから」 「……前回は送別会でワインも日本酒も飲んでたし……それでお互い前後不覚になっただけだろ」 「……でも、後悔したくないし、お前に後ろめたい気持ちを作りたくない」 「……後ろめたいのか……」 「そりゃ……そうだろ……」  黙々と食べる相良を見る。  そうか、そういうものなのか。  記憶がないせいで、完全にあの夜の行為をなかったことに久保はしていた。だからこそ、他意なく相良に接していられるのだが。 「お前は覚えてないから、何とも思ってないのかも知れないけど」  図星だ。だが非難しているような感じではない。苦笑しながらポテトを口に放り込んでいる。  もう諦めたのかもしれない。 「……なんか、すまん」 「今日はお前おかしいよ……つか、ピザでかすぎだろ……一人で食べられる量を頼めよ」 「……残れば明日食うし……」 「そうだな」 「んじゃ映画何見ようか、あ、お前泊まっていけば?」 「……」  真意を探るような視線が痛い。多分無神経なことを言っているのだろう、自覚はある。酔いのせいに出来る程酔ってはいない。  単に一人でいたくないから、多分理由はそんなところだ。 「オレで本当に寂しさが紛れるのかよ……」 「紛れるよ」 「犬でも飼えよ」 「……散歩行ったり大変だろ……寂しいからって簡単に飼えない」 「その点オレは簡単に呼び出せるしな」 「悪かったって……」 「いいよ……あんな電話貰ってここに来なかったらその方が後悔すると思うから」 「……」  柔らかく相良が笑う。また笑ってくれた。二人の間の雰囲気も和む。  思えばあの日も今日も同僚として同じ会社にいた頃何度も見た笑顔を見せてはくれなかった。  ずっと苦しそうな顔ばかりしてた。  それはオレに後ろめたくて、後悔していたからか。  もしかして、いや、もしかしなくても相良は会わなくなってからも後悔を続けていたのだろう。だから今日だって駆けつけてくれた。  そして、その根源は自分に好意を持ってくれるから。  じゃあ、オレは? 「相良」 「ん?」 「……お前はオレと付き合いたいの?」 「……急に……何だよ……」 「別に急じゃないよ……告ってきたってことはそういうことなんだよな?」  頷くと思っていた相良違うと言うのか、ただ首を横に振って別の話題を口にした。 「映画、何を見ようか……」  その話はするなと言下に言っているのだ。きっと蒸し返すなと思っているに違いない。  でも久保は有耶無耶にしたくはなかった。
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