境界線が越えられない

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 目が覚めて見慣れぬ天井が見えた時はいつだってぼんやりと昨夜のことが思い起こされ、隣で眠る彼女の温もりに癒やされる。というワンセットしか久保は知らない。  今日は見慣れぬ天井が見えた時点で頭の鈍痛と喉の乾きで、不快感が勝った。そして、ぼんやりと昨夜のことを思い出そうとしても、靄がかかったみたいに思考がはっきりしてこない。  だけど隣から感じる温もりが一人でないことを教えている。いつもと違ってなんだか体のあちこち痛いけど、昨夜はそんなハードなプレイをしただろうか?二日酔いになる程飲んだか?というか、彼女と飲んだっけ?  重い体はそのままに、顔だけを右隣に向ける。  頭が見える。短い黒髪。それに布団からはみ出た逞しい肩。  逞しい肩?! 「……えっ?!」  随分と掠れた声が出た。喉が乾いているからだ。エアコンが作動している室内は乾燥している、だからか。関係ないことを考える。  たぶん、混乱しているのだ。 「……」  頑張って半身だけ起き上がる。分かってはいたが、自分は裸だ。そして相手も裸だ。ちらりと見えた横顔は知った顔で、だからこそ久保は混乱していた。  なにが起きたか分からない。  いや、たぶん、絶対……ナニはあったんだろう。  どうしよう。  どうしようもない。  そうだ、どうしようもない。  それに眠い。  隣の同僚の相良(さがら)はまだ起きない。  それならば、オレも寝よう。  久保克己(くぼかつき)は現実逃避の為、二度寝を決め込んだ。
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