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「座椅子ならお前の前に座らないとじゃん」
「……」
「そっちのがいいか?」
「いや、いい、こっちでいい」
「ふーん」
座ったところを想像してみる。それは友達というより恋人同士の行為に思える、友達からやり直すのならその距離の詰め方はまだ早そうだ。
ちらりと相良を見れば同じ考えだったのか、ほんのりと頬が赤い。
「相良」
「……な、なに?」
「オレ達キスもしたの?」
「な、何言って……」
「えっちしたんだし、したか」
「……」
あらぬ方向を向き相良は黙り込んでしまった。嘘が付けない男だ、そして、からかい甲斐があるとも言う。
「なぁ」
「……ん?」
「気持ちよかった?」
「……」
「よかったのか〜何でオレ覚えてないんだろ」
「……」
じわじわと頬だけでなく顔全体が赤くなった相良を久保は愉しそうに見つめた。
だけど、覚えてないのは惜しい。聞きたいが教えてはくれないだろう。だが、それよりも気になることがある。
「つか、何でお前とえっちしたの?オレが彼女持ちなの知ってたよな?」
「……最後だと思ったから好きだってつい……口から出て……その、付き合いたいから言った訳じゃないんだ……そしたらお前が……オレと……セックス……したいのかって……言って……」
「言って?」
「……オレも……その、したくない訳じゃないから……そしたら、男ならノーカンか〜って……それで……何ていうか……流れで……」
「うわ、オレ最悪じゃん……」
全く覚えていないが、自分の振る舞いは相良に対しても元カノに対しても不誠実極まりない。最悪だ。
だが、相良はフォローを入れてくれた。
「酔ってたっていうのもあるし……」
「酔ってたにしてもな……でもそうか、気持ちよかったのか……何で全部忘れたかな……」
「お前が忘れててよかったよ、お互い気不味くならなかったし……」
「う〜ん……そうか……そうなのかな……でもえっちしたんだし、キスも出来るかも」
「は……?」
「またキスしてみるか?」
「何故そうなる?!!」
余程びっくりしたのだろう、目を見開き久保から距離を置くように飛び退く。
そんなに驚くことだろうか?という顔で見ていると、相良は咳払いを一つして何もなかったみたいにタブレットを二人が見やすい位置に置いた。
「じゃあ、見るか」
「友達なら酔ってキスくらいすんだろ」
「……そんな友達はいない」
「別にキスくらいなら出来ると思うんだけどな」
「今日友達になったばかりなんだから、まだそういうのはないだろ」
「……そうか、今日なったばかりだったな」
そうだ、友達からやり直したのだった。
真面目な顔を取り繕う相良の心境は分からない。
だけど、今までの関係とは明らかに違う。
それがどこへ向かうのかはまだ二人共分からないけれど。だからこそ、今はまだ超えられない。
二人の関係はまだ脆く、始まったばかりだから。
「見終わったらお前のパンツ買いにコンビニに行こうぜ」
「あぁ」
「一緒に朝食とさ、プリンでも買うか」
「そうだな」
穏やかに笑う相良の隣は随分居心地が良さそうだ。今はそれだけで十分だ。
一人で居た時には感じ得なかった充足感を覚えながら、久保は相良に体重を寄せた。
完
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