9403人が本棚に入れています
本棚に追加
あれ?
今、触れた?
ほんの一瞬だけど、柔らかな感触に触れた……気がする。
なにが触れたの?
もしかして唇……?
「えっ、え……? どうして?」
演技も忘れてわたわたと戸惑う。
本当にするわけじゃないってさっきは言ったのに、どうしてしたの?
探るように伺っても北条君は理由を教えてくれなかった。
その代わりに、
「めちゃくちゃ好き!」
と、もう一度言ってくれた。
少年みたいな顔つきで、たった一言の言葉なのに熱量があって、私の中にどんどん浸透して心の奥の奥まで届く。
「私も……!」
そう答えた私の体は北条君の腕の中に包まれる。
力が強くて苦しいのに絶対に離してほしくなくて。
胸から聞こえてくる北条君の鼓動の音が、私のおかしなくらい乱れた鼓動とシンクロして重なってる気がして。
居心地が良いわけではないのに、ずっとこうしていたいなって思える。
手のひらが頬にかかって上を向かされる。
何も言葉は交わしてないけど、キスするんだって視線で分かった。
相変わらずこういう時の作法はさっぱり分からず、張り裂けそうな胸を抱えながらただ目を伏せてその時を待つだけだった。
まつ毛がかすって、もうすぐそこに唇の気配を感じる。
最初のコメントを投稿しよう!