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さて。
銀座と聞いた時からなんだか少し嫌な予感はしていた。
「こ、ここですかっ……!?」
待ち合わせをしてたどり着いたショップは、まさかの高級ジュエリーショップだった。
瀟洒な外観に大理石のアーチ。
最近婚約した有名女優が、このブランドの婚約指輪を贈られたとテレビでチラッと見たばかりだったので戸惑いが隠せない。
物によって値段は違うのだろうけど……この店絶対にそんな安いものなんてないよね……!?
どう考えても分不相応だよ……!?
私は涙目で顔を横に振った。
「そんな顔してもダメ」
笑顔で、語尾にハートがつきそうな甘い語調で却下される。
「そのあたりのファッションジュエリーのお店でいいのでは……!」
指輪なんて、私たち夫婦にとってはひんぱんに使う物でもない。むしろ最初で最後の可能性が高い。
「うちのおっさん目ざといから絶対チェックする。仕事も結婚もちゃんとやれてるってこと示さないと強制的に辞めさせられるから。これも契約内容のうちだよ」
そうか……北条君のプライベートは私と同じ価値観で考えたらいけないんだ。
この人はもう立派な社会人なんだから……。
「予約してるから。行こう」
「は、はい……」
制服のまま、臆面なく入店する背中についていく。
「いらっしゃい、ませ……?」
ドアマンさんの語尾に戸惑いが滲んでいた。
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