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しばらくトイレの便座に座ってうずくまっていた。
抱き合ったり愛を語ったり。
そんなことしてたら注目されるに決まっているよね。
北条君のキャラじゃない。
そしてもちろん私のキャラでもない。
『一生幸せにします』
北条君の宣言が、ずっと頭の中でリフレインしている。
『全部可愛くてしかたがないです』
可愛い?
可愛いって何……?
あぁ、もうっ!
顔の熱が引かない。
胸のドキドキもおさまらない。
本当は水で顔をはたきたいのに、お化粧は落ちちゃうからできない。
そろそろ戻らないと北条君が心配する。
何かあっても表向きはなんでもない顔をしてなきゃいけないなんて、大人って大変だ……。
いぜん落ち着かない気持ちを抱えたままお手洗いから会場へ戻ろうとした。
そこで私は思わぬ人物と鉢合わせた。
「おや、美桜さん。来ていたんだね」
今会場に着いたと思わしき、北条君のお父様。
私にとっては義父にあたる人物。
まさかここで会うとは思っていなくて完全に固まった。体温も一気に下がった気がする。
よく考えたら、東洋グループの社長なのだからこういう場に招待されていてもおかしくはない……。
または……北条君が出席すると予想した上で来たのかもしれない。
「先日は、お邪魔しました。ありがとうございました」
内心の動揺を隠して挨拶をする。
義父が隣の秘書らしき人物に目配せすると、彼はさっと私たちの前から消えた。
ふたりきり。
なにか言われるのではないかと身構える。
「君たちは、2年生まではクラスも違って交流もまったくなかったそうだね。いつの間に仲良くなったのかな?」
なんの前置きもなくたずねられる。
疑われてるんだと、直感で思った。
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