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「春休みに、図書館で蓮さんと会ったんです。偶然にも同じ本を探していて、そこから意気投合しました。まさか誕生日も同じで運命を感じて……私の事情もあって結婚に至りました」
これは北条君と口裏合わせて作ったストーリーだ。
聞かれたらこう答えよう、と。
『その日の天気は?』『図書館の名前は?』『探していた本の名前は?』等、細かい部分も詰めてある。
「あまり夫婦で出かけることもないみたいだし、蓮と美桜さんはタイプが違いすぎて驚いているんだ」
「それは、受験を控えている身なので……ご心配なく」
一見穏やかながら、冷たくて感情のない視線。
慣れることはないだろう。
「18歳になったら蓮は婚約することになっていた。彼は私の言いつけをことごとく反故にして逆を行く究極の聞かん坊だ。そして君は伯父の家でおよそ人間とは言い難い粗末な扱いを受けていた」
「……な、なにがおっしゃりたいのでしょうか?」
一歩踏み込まれ、鋭い視線に鋲刺され動けなくなる。
「君たちは、本当に愛し合っているのかい?」
「そうでなかったら、なにが」
「ビジネス、とか」
見破られている?
2年生まで交流のなかった私たちが3年生初日に結婚するというのはやっぱり不自然で。
「なぜこんな探りを入れるのかというと、君たちが本気の恋愛なのかそうじゃないのかで、こちらのやり方も変わると思ってね」
やり方って、なに?
あの手この手を用いて無理やり離婚させる、と……?
そんなことしなくとも私たちはあと半年も経てば自動的に離婚する、そういう契約だから。
北条家の余計な面倒に巻き込まれるくらいなら、ここで本当のことを話してしまう?
一瞬頭をよぎるが、とてもそんな気になれない。
半年で離婚しますなんて、言いたくない。
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