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お義父さんの目を気にしてぴったりくっついて時に見つめ合って。必死に妻として振る舞って。そんな一時もなんとか終わって。
タクシーで帰ろうかと言ってくれたけど、なんとなく外を歩きたかったからホテルを出て駅に向かう。
「うわ、まだついてきてやがるし。しつこ!」
「え!」
北条君が後ろを見てうんざりと吐き捨てたのを見て私もちらっと確認する。
確かに……会場で私たちを監視していた人たちがしっかりついてきている。
「疑惑、晴れてないのかな」
「結構イチャイチャしてたのにな?」
「あんなにくっついてたのに……」
そうは言いつつ、やっぱりハタかた見たらどこか不自然なのかもしれない。
イチャイチャしてるつもりでも、本当は他人同士の空気が出てしまっているのかな……とか。
ふと、北条君が急に立ち止まったから私も歩く足を止めた。
周りの人はどんどん歩いて行くから、行き交う人の中で私たちだけが立ち止まってる。
「? どうし――」
「キスしようか?」
突然、そんな言葉が聞こえてきてぽかんとする。
雑踏の中で聞き間違えてるのかな、って。
「キスしよう」
「え!?」
聞き間違いじゃなく、冗談ではもなさそうな真顔。驚きと戸惑いが一気に押し寄せてくる。
それが『演技で』だと理解したのは、ワンテンポ遅れてから。
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