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あぁ……いや、でも。
「ここで……? たくさん人がいるよ……!?」
「奴らが見てないと意味ないだろ」
「そうだけどっ……!」
要するに『見せつける』っていう意味。
お堅いパーティーが終わって一歩外に出て、人の目もお構いなしに道端でキスをしてしまうくらいの熱い夫婦なんだって。
「!」
またさっきみたいに強引に腰を引き寄せられて、その力加減から北条君は本気でするつもりなんだってひしひしと伝わってくる。
さっきまでは隣同士だったから。
顔は見なくていいからまだなんとかなったけど、今は向かい合ってるからどうしても俯いてしまう。
「美桜」
夫婦ならこんなモダモダしないでしょ――分かってるのに、顔を上げたらキスをするのかと思うと。
「……本当には、しないから。寸前で止めるから」
いちいち間に受けてしまってバカみたいな私に、小声で演技だと釘をさしてくれる。
そう、演技、演技、演技。
してる風だから。本当にキスするわけじゃないから。
「こっち見て?」
「う、うん!」
なんとか顔を上げて、首を精一杯上に傾けて北条君を見る。
やっと目が合うと、嬉しそうに口元をゆるめて微笑んでくれた。
「美桜」
私に一直線かつ、とろけそうなくらいに甘い視線に鼓動が速まっていく。
頬に触れる、熱い手のひら。
「好きだよ」
まったく想定していなかった『セリフ』に、ずきんって心臓を一突きされたみたいに脈打った。
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