9404人が本棚に入れています
本棚に追加
「――」
今度ははっきりとした感触で、温度だった。
ほんの一瞬だったけどすごく優しくて、頭のてっぺんから爪の先まで甘く痺れてとろけていくような感覚になる。
「……」
次にやってきたのは浮遊感。体を抱かれていなかったら風船みたいにふわふわ浮いてどこかにいってしまうかも。
間違いなく、今までに感じたことのない種類の感情と体験だった。
「か、帰る?」
「そ、そうだね!」
互いに俯いているだけの変な空気の果てにようやく我にかえった私たちは、慌てて駅に向かって歩き出した。
逃げるみたいに早足、でも手はしっかり繋いでくれるんだね。
あぁ。
言葉も抱擁も手を繋ぐのもキスも、演技なんかじゃイヤだよ。
卒業したらぜんぶ失くなってしまうなんてイヤ。
ぜんぶ、ホントウがいい……。
そう強く願ってしまった時――北条君が好きなんだって気がついたの。
最初のコメントを投稿しよう!