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とりあえずその日は平和な空気で授業を終えたけれども、放課後に担任の那智先生に呼び出された。
「受験の時期にみんなを混乱させてしまい、先生方にもご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした……」
頭を下げた。
みんなを混乱させただけ……と言ってもみんなにとって今は大切な時期で、余計なノイズで混乱させてしまったことはよくなかった。
那智先生はふっと笑った。
その微笑みは呆れでも怒りでもなく『大丈夫だよ』と言ってくれているみたいで。
那智先生はいつもこうやって大らかに接してくれるから安心する。
「最初はみんなには話さないって言ってたけど……こんなことになるかもなって予想してたよ」
「えっ?」
先生はなぜかちょっとしたり顔だった。
「北条君は、橋田さんが奥さんだってみんなに宣言したかったんだろうね」
「あ、えっと。それは色々やむを得ない理由があったからで」
「そりゃあ色々あったんだろうけどさ。でも言っちゃったら『学校の風紀を乱した』だとか『周囲に悪影響だ』とかナンダカンダって、教員や保護者の間でめんどくさいことになるかもしれないでしょう? 彼は社会人だからリスクヘッジの意味くらい分かってる。それでも宣言したい気持ちが勝つんだから、相当だよ」
「……相当?」
先生が言わんとしてることがなんとなく分かってしまって、私はどこかそわそわしながら聞き返した。
「相当、愛されてるよ」
ドキンと――先生に聞こえてしまうのではないかというくらい大きな音が、胸の奥で鳴った。

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