始まりはこれから

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ったく。金曜日の夜だってーのに、残業しちまった。普通、五時過ぎてからメール見るとロクなことはない。だからって見ない訳にはいかないし、気づいちまったことをやらない訳にもいかない…。で、一週間も前倒しで納品したプログラム、来週月曜にはいよいよリリースだってーのに、今さら気づいちゃったとかさー…、もう、気づいてくれない方がむしろ良かったのに…とか言えないんだよな…。しかも若い子が担当だったりすると自分のフォローが足りなかったって、自分自身のミス以上にいやぁ〜な気分になるもんなんだよな。で、嫌がるみんなを引き止めてチーム総動員して大至急で挽回しようとしたりする動きがあるとさ、自分だけそそくさとは帰れないんだよな。ま、今日は一〇時過ぎには終わって良かった。しかも、食事会がなかったのにも救われた。八時頃に終わったりするとそのまま皆で飲みに行こー!とかなるんだけど、さすがに一〇時も過ぎてると、いまから食事って気分の人の方が少ない。立ち飲みで一杯!なんてのはよっぽどの呑んべぇだけだし。そんなこんなで一一時前の最寄り駅を一人でふらりと歩いてたりする。 改札を出て、人もまばらな駅のコンコースを出て家に向かう。最寄り駅とはいえ、結構大きな乗り継ぎ駅なんだよな。東海道じゃないけどなんちゃら新幹線とかも停まるし。で、向こうからやってくるのはなんだか見覚えのあるような… 「谷口?」 「白木ぃ。ひさしぶりー。」 「おー。最後に会ったの…、あれ…」 「三年前の同窓会、お前来なかったよなぁ?」 「三年前?そんなのあったっけー。」 「あー、同窓会じゃなくてたまたま何人か集まっただけで、お前のこと呼ばなかったのかなぁ?」 「なんだよそれー。」 「まー、とにかく、ひさしぶりだな。いま会社帰り?遅くね?」 「んー、今日はたまたまなんだよ。」 「たまたまか。」 「んー、たまたまだよ。」 「たまたまっていえばさぁ、おまえ、ひま?」 「ん、まぁ、ひまっつーか…、もう晩いからさっさと帰って寝たいけど。」 「明日とか、予定あんの?」 「いやぁ、明日はさすがに寝たいんだよ。いま、結構疲れちゃってんだよ。」 「っつーかさ、どうせ予定ないんだったらオレと一緒に行かねーか?」 「どこに?」 久しぶりに出くわした同窓生の谷口は二泊三日の豪華列車の旅券を持っていた。一緒に行く予定だった人が急遽行けなくなっていまから一人で豪華列車に乗り込むところだって…。豪華列車に乗り込んだら超高級フレンチの夜食も出るし、酒も飲めるし、シャワー室もバスローブもある…、どこまでがどう本当だか分からないけれど、そんな話にすっかりオレはのぼせてしまった。最低限の下着なんてそこら辺のコンビニで買えるだろーとまで言われ、列車に乗ったらあとは寝るだけで翌朝には米子に着くって…。で、米子って鳥取にあるらしいんだけど、着いたらあとはほぼ自由行動で海の幸をたらふく食うもよし、近くの有名な神社に行くとか、温泉もあるってーし、観光もできる、高級旅館にも無料で泊まれるっつーから…、うん、男二人っつーのはどうかと思ったけれど、週末の予定もなかったし、骨休めにはならなくても気分転換にはなるだろうと思って、そのまま出かけることにした。 さて、米子ではなにが待ち受けているんだろう。まさか、谷口があんな理由でオレのことを計画的に待ち伏せしてただなんて、あのときのオレには知る由もなかった。
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