祖母の家に

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祖母の家に

竹山瑠奈、18歳、不幸な事が多い女の子である。 まず、5歳の時、母が交通事故で死ぬ、父は生まれつき病弱で 入退院を繰り返し、看護士をしていた母と知り合ったのも、病院だった。 病弱なので、真面な職業には付けず、時々、知人のカフェを手伝う位で 家計の殆どは、母の収入に頼っていた。 母の急死に、心も体も弱い父は、ショックを受け、また入院してしまい 瑠奈は、小学校へ行くまで、母方の祖母の家に預けられた。 小学校へ行くために、父の元に戻って来た瑠奈の顔を見て 残された、この子が、独り立ちできるまでは死ねないと、父は、立ち直った。母が残した保険金と、事故の賠償金を切り崩し、何とか暮せていたが 父の体の負担を減らすために、瑠奈は夏休みや冬休みなどの 長期の休みには、祖母の所へ行っていた。 だが、その祖母も、瑠奈が10歳の時に死んでしまった。 深い悲しみに沈んでいる、父と瑠奈に、祖母の妹、加也は 「姉のお墓や、この家の事は、私が面倒を見ます、貴方は、自分の身体と 瑠奈の事だけを考えて下さい」と、父に言った。 その言葉に甘えて、父は二時間電車に乗り、その後バスで40分ほどかかり 体に負担が掛かる、この田舎の村に、来る事は無く 瑠奈も「祖母ちゃんが居ない家に行っても」と、行く事は無かった。 母が居なくて、服装や持ち物に、気が配られていない瑠奈は 学校で、虐められていたが、心配性の父には、何も言わなかった。 だが、そんな瑠奈を、近くに住んでいる東山陽介が、いつも庇ってくれた。 この陽介とは、幼馴染で、一緒に祖母の家にも行って 長い休みを楽しんでいた仲だった。 その時からずっと、陽介は瑠奈が困っていると、何時でも助けに来てくれた。 陽介は、名前の通り太陽みたいに明るくて、困っている人を見ると 放って置けない性格で、瑠奈だけでなく、困っている人を見ると 直ぐに助けに行き、小学校の頃から、ボランティア活動にも熱心だった。 相変わらず、季節の変わり目などに、父は体調を崩し、入院したが その時も、陽介は手伝いに来てくれる、瑠奈にとっては、頼もしい存在だった 瑠奈は、高校を卒業し、近くの工場に就職が決まり、その工場が持っている 社員用のアパートで、暮らす事になった。 一人用の冷蔵庫や、洗濯機などの家電も揃え、四月から仕事に入ると言う 三月の末、「これで、やっと独り立ちだね」と、安心したのか 父は入院していた病院で、息を引き取った。 呆然としている瑠奈に「瑠奈は、小父さんの傍に居ろ、俺が全部する」 駆けつけた陽介は、そう言うと、葬儀の事や 借りていたアパートを整理し、引き払う事等、すべて一人でやってくれた。 そして「お父さんの分まで、しっかり生きないと駄目だぞ」と、瑠奈を励ます 「うん、陽ちゃんが居てくれるから、頑張れるよ」 瑠奈も涙を拭き、新しい仕事に励み、陽介は、大学一年生になった。 だが、それから、僅か四カ月で、その工場は倒産した。 社長が、友人の保証人になって、多額の借金を背負う事になったと言う。 当然、社員用のアパートも、売却される事になり、瑠奈は、行き場を失う。
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