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マリアンヌの父であるイルヴァディソフも、アーモンの父であるアイビー様も、両家を考えればそれが一番良いだろうと、とんとん拍子に話は進み、いつのまにかマリアンヌとアーモンは単なる知り合いくらいの繋がりしかなかった。
だけど、いくらこの婚約に家同士の価値がなくなったのだとしても……。
駆け込み19歳という年齢もあって、その後も何度かマリアンヌに縁談の話は舞い込んだ。しかし、マリアンヌがあまりにも面白くなさそうにするために上手くいかない。それどころか、マリアンヌは無意識に相手のプライドを傷つけるそうだ。
ただ、至らぬ点をさりげなくフォローしているつもりなのに、面白くも可愛げもない女だと噂されるようになった。
庶民の結婚年齢は20を過ぎても全然若いのに、貴族の結婚は未だに若ければ若い方が良いとされている。
おそらく、跡取り問題が大きいのだろう。
女は生める年齢に制限があるから。よりよい跡取りを早くから確保していたい。
男女の地位確立のための差別はなくなって久しいが、どうしてもそこに引っかかりが生まれてくるのだ。噂も相俟って二年経った今、マリアンヌの元に縁談が舞い込むことはほぼない。
さらには、去年アーモンまでもが、リディアスから去り、ディアトーラへ行ってしまった。誰のもらい手もなければ、もしかしたら、……と思っていたのに。
マリアンヌ? いったいいつまでここにいるつもりですか?
それは、母の言葉だ。
分かっていますわよ。一応、お父様のお手伝いができるくらいなら、知識も付けております。
海の外への貿易に力を入れ始めていた王家との婚約には、交易の知識が必要だった。だから、見習いくらいなら、すぐにでも働ける。
でも、手伝わせてくださらないじゃないですか。
唇を噛みしめ、マリアンヌは母の視線から逃げた。
弟が跡を継ぐから私が邪魔なのでしょう? そうよね。いつまでも姉貴面した者が少し前を歩き続ける。邪魔でしかないわ。
マリアンヌは、動けない自分を太陽に揺れる景色に映し、また大きな溜息を付いた。
今のマリアンヌに残されている道は、どこかの貴族の後添えに入るくらい。そして、今がちょうど、中途半端な年齢なのだ。
後添えには若すぎ、初婚には老いすぎ。
まだ21だと言える庶民が羨ましい。
船の汽笛が窓を抜けて、響いてくる。
今日三度目の汽笛である。
あと二度、あの汽笛が鳴る。あの船に乗って、アーモン様のいるディアトーラのあるワインスレー地方へ行く者が、数十から数百いるのだ。
アーモン一家が国外へ追いやられた理由。
心ない者達は、不仲説を支持する。心ある者達は、何も語らない。
マリアンヌにも分からない。ご家族はみんな仲が良かったとしか、思えない。
マリアンヌはアーモンからの手紙を胸に抱きしめると、不意に立ち上がった。
いいえ、アーモン様の元へ行けば良いのかもしれない。行くことはできるのよ。
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