7人が本棚に入れています
本棚に追加
「次が最終ですよ」
「存じております」
「船ですか?」
マリアンヌは黙っていた。
最終に限り、船が着かなければ列車は動かないし、列車が着かなければ、船は動かない。船なら、降船後に知り合いが多くいる。
だけど、会える機会は失われる。
「船は着いているようですので、列車が着き次第、乗合馬車に乗っていただかなければ、間に合いませんよ」
「はい」
心配そうな、それでいて疑心暗鬼のような、そんな表情を駅員は浮かべ、マリアンヌから離れた。
駅員は駅にいる人すべてに近づき、声を掛け、見えなくなった。
灯りも心許なくなってくる。掌の紙の鳥も淋しそうに首を擡げている。
先ほどの駅員がまた戻って来て、間引くように灯りを消していく。その後から、駅員がもう一人、箒と塵取りで彼を追いかけていく。
「最終列車、到着しまーす」
駅中に響く声で叫び、駅がにわかに賑やかになり、乗客達が同じ方向に流れていく。
船着き場からの乗客も到着し始めたようだ。
流れが二つできて、マリアンヌの前を慌ただしく通り過ぎていく。
この流れに乗る。ここで夜を越さなくちゃいけないのは、怖い。紙の鳥は擦り傷の掌の上で、寂しそうにしている。掌の傷はすっかり塞がっているようで、痛みはなかった。
怖い……。みんな知らない顔。そればかり。
「あっ」
雑踏が起こした風がその鳥までをも、マリアンヌから奪ってしまったのだ。踏まれてしまうと思うと、慌ててその鳥を追いかけた。今は、頼りないその鳥ですら、マリアンヌには大切な拠り所になっていたようだ。鳥はすんでの所で、マリアンヌに摘まみ上げられた。
「マリー?」
その呼び名に首を傾げる。
マリーなんて呼ぶのは、アリーと家族。それと、もう一人……だけ。
「どうして君がこんなところに?」
夢でも見ているのだろうか。
「従者は?」
当たり前の言葉を掛けてくれる存在。
立ち上がったマリアンヌが小さく頭を振る。
最初のコメントを投稿しよう!