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「どうして? 一人なのかい? なんて危険なっ。君は元来一人で何でもしようとする、そういうところはあったが、世の中はそんなに優しくないんだ。これからどうするつもりだったんだいっ。あぁ、今なら乗合馬車に間に合う……駅員に……手を怪我しているじゃないかっ」
その声は、どんどん焦りを孕んでいく。そう、彼は心配すると声が大きくなる癖がある。婚約当初はよく泣かされた。だから、彼も気を付けるようになって、私も気を付けるようになって……。
そして、今日、本当に身に沁みました。
だけど、その優しくない世界を一番に知っているのが、あなただとも思っています。
「転びました。アーモン様が悪いのですよ」
急に悪者にされたアーモンが、事情を飲み込めずに眉を顰めた。
「お手紙をいただきました」
「あぁ、確かに送った。昨日のことだ」
そして、苦虫を噛み潰したようにマリアンヌを見つめ、溜息のような微笑みを浮かべた。
「忘れていたよ。君がそういう女性だったということを」
思い立ったら動いてしまう。
馬車発車の笛が鳴る。
「もう、間に合いませんわ」
「君がもたもたしているから……まさか、リディアスの帰りに会うとは思っていなかったが……弟を送ってこちらに帰って来たのだ。そこで君の噂を聞いた」
きっと、弟君のディモン様は、リディアスでの王座奪還の機会を諦められなかったのだろう。王家と共にあれば、僅かなりとも機会はあるかもしれない。マリアンヌは情けなく空を眺めるアーモンを見て、目頭が熱くなってくるのを感じた。とても懐かしくて、とても、切なくて。それなのに、とても安心する。
「……全く君といい、ディモンといい」
「お会いしたかったのです。ただ……お元気なお顔を」
列車の時間が迫ってきていた。
「仕方がない。今夜はディアトーラへ共に行こう。それから、落ち着いて」
そう言ったアーモンが、ふと優しくマリアンヌを包んだ。
「マリー。だが、……私も嬉しい。荷物はこれだけか?」
「はい」
駅員の声が響く。
「最終列車、発車しますよ。急いで下さい」
アーモンの手にはマリアンヌの荷物。そして、アーモンに包まれたままのマリアンヌの手の中には、色とりどりの花に飾られた青い鳥が、包まれていた。
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