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涙のあとに
「美味しいです」
後から注文したパフェは、今まで食べたどんなスイーツよりも美味しかった。
「‥‥‥生クリームついてるよ」
宰相閣下が右の口の端を指差して見せていたので、僕は右の口元を拭ったが笑われてしまった。
「違うよ、逆」
宰相閣下は手を伸ばすと、僕の口についている生クリームを手に取って舐めていた。どうやら、僕にとっての左の口元だったらしい。
「‥‥‥甘いね」
「え? ええ‥‥‥」
宰相閣下の『行動』と『言葉』に、自分の顔が熱くなっていくのが分かった‥‥‥。よく、今まで独身だったよな‥‥‥。と思った。
「大丈夫? 顔が赤いね」
宰相閣下の手が伸びてきて‥‥‥。僕の額に手が触れた。
「ひやっ‥‥‥」
「熱は無いみたいだ」
「‥‥‥もう、お腹いっぱいです」
「まだ、たくさん残ってるよ? いいの?」
「はい‥‥‥。何だか、胸がいっぱいで食べられそうにありません」
「そう‥‥‥。それじゃ、私がもらってもいい?」
「えっ‥‥‥。はい」
宰相閣下はそう言うと、口を開けて待っていた。
「あの‥‥‥」
「あれ? 食べさせてくれるのかと思っちゃった。違ったのか‥‥‥。ごめん」
よく見れば僕の手は、スプーンの上に生クリームが載った状態で止まっていた。
「いえ‥‥‥。違いません」
僕は震える手を抑えながら、宰相閣下の口に生クリームを運んだ。宰相閣下は、生クリームを飲み込むと再び口を開けた‥‥‥。どうやら、この作業は繰り返し行われるらしい。
僕は実験で貴重な薬品を使うときよりも緊張しながら、宰相閣下の口元へ残りのパフェを差し出す作業を続けた。
心臓は魚が跳ねるようにドクドクと脈を打っているのが、宰相閣下に聞こえているんじゃないかと気が気じゃ無かった。
宰相閣下が最後の一口を食べ終えると、僕は達成感と開放感に浸った‥‥‥。けれど、ホッとしたのも束の間、宰相閣下の手が横から伸びてきて僕の頭を撫でていた。
「大丈夫? 疲れちゃった?」
「いえ‥‥‥。そんなことは、ありません。」
僕は宰相閣下の言動に、一喜一憂してしまっている自分の感情が、よく分からなかった。
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