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季節と君と寄せ書きと
「ああああああああああああああ!いやだああああああああああ!夏が終わるのいやだあああああああああああ!」
慶太が海に向かって叫ぶのを、僕は生暖かい気持ちで見ていた。
僕達の町は海に面している。夏になると、小学校の友人数名と海に来て遊ぶのが恒例行事となっていた。八月の終わり、いい天気だったので今日も僕は慶太や摩季たちと共に、海に遊びに来ていたというわけだが。
「落ち着け、みっともない」
僕は覚めた目で彼の後ろまで歩いていき、肩をぽんぽんと叩いた。
「夏休みの宿題をほったらかしにしておく君がいけない」
「うっせえ!俺はな、陽向みたいに要領よくねーんだよ!一年生から五年生の今年まで見事なまでに全ての夏休みの宿題をぶっちぎっている!えれーだろうが!」
「1ミリたりともえらくないし、最終日にやるんじゃなくてブッチしてんのかよ。いい加減、学校に親が呼び出されるぞ」
「だから焦ってんだろ、夏休み前に先生に脅されたんだから!」
「脅されたんなら早めに終わらせておけ馬鹿!」
おかしい。僕は慶太と漫才コンビを組んだ覚えなんてないのに、どうしてさっきからツッコミばかりしているのだろう。頭痛を覚えていると、摩季が友人二人を連れてテトテトと砂浜を歩いてきた。今日の彼女は水着ではない。浅瀬で貝殻拾いをしたかったから、らしい。足が波に浸かったのか、ビーチサンダルは濡れているようだったが。
「何騒いでんの、慶太。どうせまたくだらないことなんだろうけど」
「夏が終わるのが嫌だって駄々をこねてるんだ。小学校五年生にもなってみっともないよな」
僕が肩をすくめると、摩季はあははは、と声を上げて笑った。
「まあ、気持ちはわかるよ。あたしも秋より夏が好きだもん。日が短くなってくると寂しくなるしさあ」
「おう、わかってくれるか!遊びまくれる夏休みが終わっちまうのもマイナスポイントだ!俺はあと数日で夏休みが終わるという現実から心底逃れたいのだ!」
「はいはい。夏休みが終わっちゃうのもあるけど、やっぱり寒くなるのが嫌だよね。あたし、暑い方がまだ好きだな。秋になると一気に寒くなるというか。海にも入れなくなるし」
「確かに」
僕は頷く。まだ浅瀬の方では友人数名が貝殻を拾ったり、砂浜でトンネルを作ったりして遊んでいる。今日は水着になって泳いでいる奴は少なかった。僕と慶太もTシャツに半ズボン姿で、水着は着てきていない。まあ、慶太の場合は泳げないのも理由の一つなんだろうが。
「秋になったら、泳げなくなるし。うち、近くに屋内プールとかないもんね。秋に来て欲しくないよねえ」
「うんうん」
摩季と僕が頷き合っているのを見て、なんだよお、と慶太は口を尖らせる。
「結局、二人も夏が終わって欲しくないんじゃん。仲間仲間」
「宿題が終わっていなくて逃げたい君と一緒にしないでくれる?僕も摩季も先週までにちゃんと終わらせてんだから。あ、ドリルは写させてやらないからそのつもりで」
「ちょー!?」
そんな会話をしたのが、八月の二十六日、土曜日のこと。
僕達は気づいていなかった。この時のちょっとした会話のせいで、あんなことになるなんてことは。
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