シャロンは気づいていなかった最低なジェリーが最高のジェリーフィッシュだったことに

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 僕は追い出された日のことを思い出した。あの夜もこんな大きな月が出ていた。あれから僕は女とは暮らせなくなった。しばらくはバーで寝泊まりしていたが生活は荒れていた。  そして数か月後、行きつけの本屋で住み込みの仕事を始めた。仕事をしながら作品のストーリー練ったり、思いついたことをノートに書き留めた。そして夜は作品造りに没頭した。  ジェリーはシャロンのアパートメントのドアを開けた。  一瞬凍り付いた。部屋はあの時のままだった。なにひとつ変わることなくそのままだった。  ドアを開けると、まず目に入るのが壁にかけてあるコーラ瓶の形をした鏡。キッチンの床の掛けたタイル。冷蔵庫の猫型のマグネットに止めたレシート。ソファーは少し古ぼけた感じがした。床のマットも少し色あせて端っこのほつれがひどくなっていた。リビングのテーブルのきずは、僕がグラスを落として割った時についたものだった。  ベッドには新しいカバーがかかっていた。でもヘッドボードについたきずを見つけると、僕はそのきずを指でなぞっていた。それは面白半分でシャロンの手首を手錠でつないだ時に出来たきずだった。
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