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「トシキ君!」
僕が「え?」という間もなかった。彼女は素早く僕の脇をすり抜けていった。
振り返ると、改札を出てきたトシキの胸に飛び込んでいくヨッコの後姿が見えた。
いつの間にそのようなことになっていたのだろう。
そんなことも知らず、僕は何のために、痛む身体を引きずり怒鳴られながら走り回っていたのだろう。
僕は雑踏の真ん中で、驚きと悲しみ、そして行き場のない悔しさにただ立ち尽くしていた。
再び背後で、ヨッコとトシキの声が絡み合うのが聞こえる。
声を上げて泣きたくなる衝動が突き上げてくると、僕はもう迷わなかった。
滝のごとく激しく降る雨の下に、一気に駆け込んだ。
あの日の雨は、まだ止むことがない。
(了)
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