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生徒会室には、教員から渡された資料の整理を行っている書記の私と、鬼のようなスピードで書類の記入を進めている、一歳年上の副会長・飯妻浅香が残っていた。
「好きな人いるんですか、副会長」
そして今、私は十六にして失恋を味わうこととなる。
勿論私が報われないとは理解しているつもりですよ? 弁えてもいましたよ? けどやはりショックがでかい。私と浅香は女性同士。いつからこの気持ちを自覚したのかは曖昧だけど、中学二年生のころにはもうオチていた。レズビアンなのかと自己分析するも、他の女性には全くそういう感情を抱くことはなかったため、多分浅香限定なのだろう。そのまま浅香を追って難関高校の試験をパス。そして、先輩に付き従い、生徒会に立候補し、会計監査というポストを勝ち取った。とはいえ対抗馬がなかったのでちょろい試合だったけど。
才色兼備で温厚無垢。大好きで大好きで大好きな、最愛の幼馴染。今は何故か主従関係のようになっているけれど、それでもいい。私、そこまで美女じゃないし、我儘を貫き通すつもりはない。浅香との関係を壊したくないのが私の本意。うん、自分で言うのもなんだが相当プラトニックな人間だ。
笑った顔が好き。
声が好き。
頭がいいところが好き。
自信満々で真っすぐなところが好き。
何のとりえのない私を傍においてくれるところが好き。
おはようからお休みまでラインでしてくれるのが好き。
女の子なのに一人称が『僕』であるのも大好き。
好き。
好き。
好き。
なのに。
「いるぞ。好きな人」
どうして、浅香は私以外のオスに恋情を抱くのか。憎悪の念が加速度的に膨れ上がり、今から浅香を押し倒したくなる衝動に駆られる。
「すまないな、忘れてくれ。少し疲れてしまったようだな」
書類に目を通しながら、何でもないように言う。そんな浅香を見ていると、先ほどまで高ぶっていた激情が急速に冷めていく。私も私で取り繕ってそうですか、と返すが、内心は心臓破裂寸前。何も知らない浅香はその可憐で知的な眼差しで書類の文書を追い、片手で素早く電卓をたたき、数的処理を施す。二年間生徒会に居続けた浅香は、仕事のスムーズさに拍車がかかっており、傍らでバリバリ片付けられていく書類の山を見ているだけでも爽快だ。
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