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 死骸を弔った。三年前の夏に死んだ蝉の死骸だ。  蝉は大学二年生だった。容姿は抜群で、いかにも女を灰皿で殴っていそうなサラサラの黒髪マッシュ、中性的な可愛らしい顔立ち、小柄なわりに割に意外とある筋肉、それからとにかく下半身がかっこよすぎた。でもやっぱり蝉なので黒と茶色の服ばかり着てた。 「本気になったらダメですよ」  蝉は自分から手を出してきたくせに、釘を刺すように、毎回そんなことを言う。なんとなくムカついて、何度か物理的に釘刺して標本にしてやりたいと思った。しかしその顔面と下半身にやはり勝てなかった私は、蝉に言われるがままだった。  蝉には好きな雌がいた。その雌にはとっくのとうに「私、元々あなたのことそんなに好きじゃない」ってフラれているらしい。それでも蝉はずっと引き摺っている。しかしまあ、所詮蝉だから他の雌で埋めようと必死だ。  蝉は蝉で、私は枝だった。いつもミンミン鳴いてる蝉は、時々子どものように泣く。その度に私はそのサラサラの黒髪を撫でた。  蝉の夏休みが終わる。私たちの関係も自然と終わる。最後の日に蝉は私に虫刺されのような赤い痕を残して去って行った。蝉のくせに、蚊みたいなことするなよ。  鎖骨の下にある虫刺されのような痕を、Tシャツの襟を引っ張りながら鏡で度々確認した。しかしそれは四日で消えてしまった。出来れば一週間くらい残ってほしかった。 「あーあ」  もういない蝉のことを思い出すのも、この痕を勿体無いなんて思うのもやめだ。初めから一夏のつもりだったじゃないか。私はなるべく引き摺りたくないから、メッセージのは履歴も数少ない写真も消した。だけどやっぱりツラが良すぎたので、どうしても時々は思い出した。  蝉、あの後わたしもいろいろあったけれど、それなりに生きているよ。蝉が薦めてくれた「嘘とカメレオン」や「ドミコ」、今でも時々聴いてるよ。私の中の蝉はもう死んだから、お墓作って埋めておいたよ。あの世で元気に社会人頑張ってね。
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