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雨はずっと降っていた。
帰ってきて、藍ちゃんはしばらく、二階の住居部分にいた。二階で過ごしていると、お父さんが一階のお店でいつものように、料理を提供している気がしてきた。藍ちゃんは確かめるために、一階の店へ向かった。
家の中で、一階と二階はつながっていない。二階から降り、一畳分くらいの広さの玄関から、一旦外に出て一階の店に入る。
「雨、いつまで降るんやろう」
呟いた声が思っている以上に響いた店内。いつもは賑わっている時間なのに、誰もいない。藍ちゃんはお店の電気を付けた。
カウンター内の調理場を覗く。大きい炊飯ジャーにはご飯が炊きあがっていた。仕込みの途中だったのか、洗った大根と人参が調理台に置かれていた。
藍ちゃんは大根と人参を二センチぐらい切り取った。残りは保存袋に入れて冷蔵庫へ。
切り取った大根を短冊切りにした。ついで人参も。
藍ちゃんは休みの日に、どこにも連れって行ってはもらえなかったけど、お父さんに料理を教えてもらっていた。小学校に入学したころから、
「しっかり手元見て。急がんでもええで。何回もやってたら上手になるからな」
と、少しずつ、少しずつ出来るようになった。
揚げ物以外はほとんど教えてもらった。だから五年生でも、だいたいの料理ができる。
けど、料理ができるからといって、料理をするのが好きか、と問われれば首を傾げてしまう。
だって藍ちゃんは、休日に料理をすること、どこにも行けないこと、夜ご飯を一人で食べないといけないこと、それの全部が気に入らないのだから。
それもこれも、この「あいちゃん食堂」のせい。お店があるから、どこにも行けないし、一人でご飯を食べないといけない。
だから、藍ちゃんは「あいちゃん食堂」が嫌いだった。
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