神条薫子と小鶴スサト

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春です。新学期の、新たな芽吹きの香りです。 めでたく入学した香椎山高校の窓からは、いつも爽やかな風が吹いてきます。どことなく、土と植物の混ざったような匂いもしてくるので、その生命力を感じられる窓際に座れたらどれほど毎日が幸せだろうと、わたしは思います。そんなわたしは、中途半端に窓際から三席離れた席に座っているわけですが。 授業も午前の部を終えて昼休みになり、賑やかな声が学校を沸かせていました。 わたしのお腹も適度に賑やかです。早朝に起きたので空腹もいつもより早く、古典の授業中にはお弁当のことばかり考えていたせいか、蜻蛉日記を書いた藤原道綱母は、一体どんな料理をお家で作って子どもに渡していたのかと妙な妄想をしてしまいました。 そんなことを考えていても、誰しもに平等に休み時間は訪れるものです。ありがたいものです。 「というわけで、これはどう?」 わたしは鞄から重箱を取り出して、向かいの机に座っているサトくん──小鶴スサトくんへそれを差し出しました。 ツンツン尖った金髪に、じゃらじゃらしたピアス、自慢のギラリと尖った目が、ギロギロと重箱を睨みつけています。 彼が何もしないでただ眺めているだけでしたので、仕方なく自分で重箱の蓋を開けました。 中には彩り豊かな卵焼きや生姜焼き、ミートボールなどがたくさん詰まっています。 サトくんはそれもジロジロと睨み、長い沈黙を経て口を開きました。 「……かおりーぬ。なんだこれ」 「わたしのお手製四段弁当。朝5時に起きて作ったの」 朝からとても頑張ったことを褒めて欲しいですが、そんな欲望は瞳の中だけに隠して、わたしはキリッとかっこよく言いました。 きっと驚いていることでしょう。サトくんの目が丸くなってます。
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