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4 たゆたう性別
それからの生活は地獄の責め苦を受けているようだった。
ぼくはホモなのかストレートなのか、自分でもわからなくなってしまった。ある日は女の子にたまらなく魅力を感じるのに、次の日はやっぱり男がいい。どっちでもいけるというのでもなかった。男か女どっちが好きになるにせよ、必ずどっちかなんだ。
同性愛はほぼ遺伝子で決まる。子孫を残せないはずのホモがどうして受け継がれているのかといえば、X染色体に当該遺伝子が乗っているからだ。女系遺伝しかせず、娘にはなんらの影響もおよぼさない。
でもどっちみち息子が生まれればそこがボトルネックになる。なんでこんな遺伝子がいまだに残っているのかまでは解明されてないけれど、きっと生殖に役立つんだろう。たとえば女性に限り、男をメチャクチャ好きになるとか。娘ならその影響で子孫を残しやすくなるけれど、代償として息子の場合はジ・エンド。そういうものだ。
初恋適合に使われるオキシトシンは単なるホルモンなので、恒常的な影響はないはずだった。けれどもホモ遺伝子が産生する仮称・同性愛惹起タンパク質がBEMによって阻害されれば、遺伝子治療と同等の効果がある。
それならオキシトシンの効果が切れたときにホモへ戻るはずだった。実際にはそうなってない。たぶん塩基配列上にエピジェネティックな変化が起きて、ホモ遺伝子がうまく機能しなくなったんだろう。
ぼくがホモとストレートのあいだをフラフラさまよっているのは、ホモ遺伝子がメチル基によって(不安定な形で)オフにされていたから。猛勉強の末、そう結論した。
ぼくは27歳のとき、女性が好きな気分のときにBEMを再び使い、よりストレートに近い状態になると同時に結婚した。
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