マナよりのまな

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「何かないのか…何か探索を急進するための一歩となるものは……」 考えるたびつらつらと脳内に書き込まれていった情報は真っ白になり、再び情報を詰め込んで…を繰り返している。正に無間地獄だと男は幸せを見つけるための作業を地獄と表現することに違和感を覚えながらも否定することも出来ずに作業を続ける。 「…ネットに頼ってもいい情報なんて出る訳なかったか」 妻の好きなところを列挙し終え、ネットで同じ境遇の人物を探すも今日も結果は振るわず諦めて電源を消そうとする。 「また八方塞がりかぁ………ん?」 諦めていた矢先、ふと画面を見るとある広告が男の視線を釘付けにした。それは幸せを追い求める男にとって蜘蛛の糸そのものであった。 「……ここに電話をかければいいんだよな」 場面は変わって翌日の朝、男は悩んでいた。昨日見つけ男を引き付けた広告、そこには「愛、幸せ、ときめき、見つけてみませんか」とポップ体で書かれており、その下には電話番号が、更に横には小さな文字で「送料無料!完全合法!」の文字が薬の瓶らしきイラストと共に窮屈そうに貼られていた。あの時は早く何とかしなければという焦りから判断力も鈍り明日すぐに買おうと意気込んだがいざ当日になるとその広告の並々ならぬ胡散臭さから警戒せざるを得ない。もしかしたら詐欺かもしれない、いや詐欺ならまだいい。最悪危ない薬系だったら…。商品の情報を見つけるべく検索を掛けてみてもレビューの一つも存在しない。男の頭では危ない橋を渡りたくない感情と挑戦を求める感情が数十分前から喧嘩を繰り広げていた。 「かなり怪しいのはそうなんだけど話を聞くくらいなら問題ないよな、内容で判断すればいい」 昨日から引き続いてる焦燥感から男はついに電話をかけた、三回目のコールであちら側の反応があり男は「すみません、広告の薬について詳しく教えていただきたいのですが…」背を低くして聞く。 「お電話ありがとうございます。分かりました、ではこの薬「MANA」について説明させていただきます。」 電話からは優しそうな男性の声、その声の主は話を続ける。 「ではまずあなたが今欲しているものは何でしょうか。」 「私は結婚生活における幸せですね」 「あ、奥様との生活に何か問題が起こったのでしょうか」 「やっぱりそう思いますよね…でも実の頃はそうではなく…」 一通り現状報告を終え、深呼吸をする。電話の主はなるほど…と一言、その次に 「それはさぞ毎日苦痛な生活を送っていることでしょう。ですがもう安心してください、このMANAでそんな悩みは吹き飛ぶことになるでしょう」 と明朗な声を向けてきた。 「すみません、私詳しい成分等も全く分からなくて使用量などを教えて欲しいのですが」 「はい、こちらは神秘的な力を小さなカプセルの中に詰め込んだものになっており量は毎朝の食後に一粒となっております。」 「その神秘的な力とは一体どのようなものなのでしょうか…?」 「それはずばりマナなのです」 告げられた商品名と同一の成分、男は脳の引き出しから必死にマナという物質を探すも分からなかった。 「あまりピンときていない感じですね、ではそちらの方も説明させて頂きます。まずマナは化学成分ではなく特定の地域に飲み発生する大気中の風の原料となっております。…ゲームでマナという言葉を聞いたことはないでしょうか?実はそれそのものがこのMANAに入っているのですよ」 「え、確かにそのマナなら聞いたことがありますがそれって実在しているものなのでしょうか。」 「はい、元々マナとは力を指す言葉で宗教上の概念として長らく扱われていました。しかし最近になりそれが実在することが確認され、複雑な条件を根気強く待つ精神力と知識さえあれば収集出来るようになったのです。」 「へぇー全く知らなかったです…で、具体的な効果を教えていただきたいのですが」 あちら側の男性は声のトーンを変えずに答える。 「そうですね、一言で言うと「幸せや愛の感情を自分の心から引きずり出す」という効果がありますね。正直いうとその幸せの量には個人差があり全員が同じ程度の効果を得ることは不可能です。しかし貴方の場合幸せを感じ取ることができないのはその結婚生活の場でのみということなので効果は人並みには見込めると思いますよ」 「なるほど」 聞けば聞くほどこの薬は自分にとって運命の出会いなのではないかと思える。それにこんな特殊な成分で作られる薬を得れるチャンスを今逃したらもう新たな糸口は見つからないかもしれない。気付けば男はMANAの値段を聞いていた。 「はい、こちら通常価格一個4000となりますが初回ということで半額にさせていただきます。商品の方はまた責任を持って後日自宅に届けさせていただきますので住所の方確認させていただければ幸いです。」 「はい、えーと私の住所は……」 一刻も妻と幸せを共有したい、そんな気持ちから遂に男はそれを買うことを決意したのだった。
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