マナよりのまな

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数日後、男は一個の瓶を凝視していた。その瓶にはMANAと書かれている。 「ほんとに届いた…本当に合法かどうか聞いておくべきだったか?」 買って今更そんな考えが脳裏に浮かぶがすぐに取り消した。仮に言ったとしても当然あちら側は合法と言うに決まっている、たとえそれが本当は事実と違っても。 「えっと確か飲む前に確認すべきことがあったよな…あ、そうだ。先に自分の心が今満たされているか確かめるんだった。」 MANAを購入する前に、電話で思い出したかのように「あと最後に重要なことなのですがこれを利用する際は必ず心身ともに満たされている状態かを確認してください。もし心身どちらかでも健康度が欠けている場合は利用を控えるようお願いします」と言われていたことを咄嗟に思い出し、今の自分を分析してみる。 「……うん、両方健康だな、じゃあ飲んでみるか…」 早速瓶から薬一錠を手のひらに載せてみる。緊張により小刻みに震える手をなんとかそのまま口の方へ持っていきMANAを水と共に飲み込む。「案外飲みやすいな」が最初の感想となったがこれから自分はどうなるのだろうと未だ不安が消えない様子の男。飲んで少したったが心の変化は未だ感じられない。 「もしかして適当な市販薬でも高値で買わされたか…?全然効果の実感が湧かないが…」 そう広告を疑い始めた時だった。男は体の奥底から何か熱いものが逆流しているような感覚を憶えた。そしてその熱は体全体を駆け回り男に快楽感を生じさせた。 「うわなんだこれ!?なんかすごく気持ちいいぞ…?」 効果が効いて来たのはその感覚から容易に伝わった。男はいつぶりかも分からない高揚感を纏いながら早速妻を見てみる。 「ん?どうしたの?」 妻は男の視線に気づきこちらを振り返った。その時、 「か、可愛い……!!!」 「えっ?」 男は幸福感を溢れさせ妻を見つめ回す。その可愛さ、その優しさ、その自分との不釣り合わなさ、全てが今まで以上に愛おしく感じるようになり言葉が勝手に漏れ出てくる。 「俺がお前との生活で幸せを感じなかったことが馬鹿みたいだ、こんなにも素敵な人が目の前に毎日居たってのに」 「ああなんて素晴らしく幸福な空間なんだ。何世紀経ってもお前を変わらず愛し続ける心を今なら声を大にして伝えられるよ…!!」 「ど、どうしたの急に。まぁ幸せを見つけることが出来たっぽいね、凄い急なのはちょっと怖いけど…」 「やばいどの角度から見ても美しい!ルーブル美術館に身近な天使という名前を付けて展示したいレベルだ」 今までの分まで放出しているかのように好きが放出できる。男は興奮状態のまま部屋を出て薬を見つめ直した。 「これはやばいやつだ、ここまで幸せになれるとは思わなかった、リピート確定だ…!」 そう口に出しふと考える。折角手に入れた幸せだがこの薬のことは妻に知らせるべきだろうか。 「…いや、今は言わないでおこう。さっきから出続けている愛のこもった言葉が薬の副産物だとしったら彼女も流石に悲しむだろう…」 こうして男は結婚以来初めて妻に隠し事をしたのだった。 それからの二人の生活はMANAにより確かに変わった。もともと幸せを感じなかったこともあり感情をあまり出さないタイプだった男は毎日の薬の摂取によりどこでも妻とイチャつきたがる情熱的な性格に様変わりした。妻も元の夫もいいと思いつつ今の夫からの毎日にわたる愛の言葉を毎回嬉しく受け取っていた。そんな彼らは「仲の良い夫婦」として周囲からも見られるようになり依然よりも薔薇色に満ちた生活を送る事が出来るようになったのだ。 「それにしてもMANAからこんなに愛を得れるなんて当時は思わなかったなぁ」 「ん?今なんか言った?」 「あぁごめん独り言だよ、そしてもうお前を独りにはさせないよ」 「別に今までもずっと一緒だったでしょ笑」 二人の住む家は笑顔がずっと絶えることがなかった。
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