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クラス替え
「おはよー!」
校内の玄関口にある下駄箱で上履きに履き替えているとき、快活な声で話しかけてきたのは同級生の少女こころだった。周りは生徒たちの声で賑わっている。黒髪で肩まで伸ばした髪は、前髪だけ短く切られいていた。彼女は視界に髪の毛が入るのがあまり好きではない。
こころは右手を高く上げていて、手を合わせてくれと言わんばかりにふたりに近づいてきた。だいちはいつものことと目も合わせずにパチンとこころとハイタッチした。そらは優しくこころの右手に触れて、「よう。」とだけ言った。ここころは、そらの顔を見ながら、ふふ、と嬉しそうに笑った。
新しい教室は3階にある。3人は5年生になったので3階なのだが、そらとだいちはフラフラと2階の教室へと向かっていった。4年制の頃は2階教室だったので、くせで歩を進めてしまったのだ。こころはそれを(やっぱりやった)と言わんばかりにふたりを指さして、
「なにしてるの、今日から5年教室!」
と、笑っていた。
少し、むりもない。ふたりは先程出会った出来事が頭から離れないでいた。誰も居ないで、転んでしまったさきの出来事。
教室にはすでに生徒が何人か入っていて、廊下にそのクラスの名簿が貼ってある。
じつは、そらとだいちは3年と4年は違うクラスだった。こころは3年時はそらと、4年時はだいちとおなじクラスだった。
名簿には、誰の名前があるのか。
1組の教室には自分たちの名前はない。
この学年は3クラスに別れることになっている。
続いて、2組はどうか。
「わたしの名前がある!2組だ、わたし。」
「オレたちは、オレたちは…?」
上から、語順音順で並ぶ名簿を3人で瞬きもせずに見つめていた。3人の首が同じように上から下へと動いている。
「あった、みて、オレのだ、オレも2組だ!」
だいちも大きな声で言った。そして、
「そらは、そらは?」
3人は顔をピッタリとくっつけて名簿の中を見つめ探した。こころは背負っていたカバンのショルダーベルトをぎゅっと握りしめた。
「あった。」
小さい声でそらが言った。
「あったよ!」
安心したようにそらがもう一度声を発した。
こころはそらがどんな表情をしているのか覗き込んだ。そらは本当に嬉しそうで、眼差しがキラリと光っているように見えた。
「やったよ、オレたち、おなじクラスだ!」
しかし、こころはまだ名簿を確認している。
「かおりは?かおりの名前。」
かおりとは、こころの幼なじみで親友の花野(はなの)かおり。
「こころ!」
そう呼ばれたのはこころなのだが、3人とも振り返った。そこには2組の教室から顔を出して微笑んでいるかおりがいた。
「かお、2組なの!」
はにかみながら、かおりは
「うん。」
と答えた。両手を広げてチョコチョコと走り出したこころはかおりをポンポンと抱きしめて、
「よかったー。」
と微笑んだ。
そらとだいちも歩き出して、教室へと入っていく。だいちはだれに言うともなくささやいた。
「なんか、楽しくなりそう。」
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