声も、する

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声も、する

 隣りにいたはずの、そらがいない。 「あれ、そら、どこに…」 そう言いながらふと歩いてきた方向を振り返ると、しゃがみこんでいるそらがいた。 「そら、いったいどうしたの?」 こころが大きな声で心配しながら駆け寄った。 「なにか、落ちてたのか?」 すると、そらがだいちの方を向いて、 「ここは、オレたちが転んだ場所だ。」 真剣な顔つきにだいちも真剣な顔になる。 「ああ、そうだよ、それがなにか…」 言いながら、だいちは言葉を飲み込んだ アスファルトの地面に、人の靴の跡と、手のひらの跡がめり込むように残っている。 「なにこれ…変なの…」 こころはこわごわとつぶやいた。 「転んだって、なんのことなの?」 こころの後ろから、かおりは小さく聞いた。 「ここでぶつかったんだ。」 「誰と?」 「わからない。」 「…何を、言っているの?」 「見えなかったんだ。オレもそらがぶつかって転びそうになるのを見たんだ。腕を掴んで助けたんだよ。」 「見えないわけ…ないじゃん!ネコかなにかじゃ…」 すると、そらは靴の足跡に自分の靴を入れて、 「オレたちより大きい。」 そして、 「転んだとき、左手は地面についたんだ。」 そう言いながら、アスファルトの手跡に自分の手を重ねると、ピッタリと合った。4人とも言葉を失った。 こころは、 「たまたまじゃないの、…なにか…こう…偶然…」 そう言っているときに 「きゃあっ」 こころがよろけた。まるで背負っているカバンに誰かがぶつかったように。 「こころっ、大丈夫?」 かおりが肩を支えてあげている。 「ごめん。」 「え?」 「誰か、ごめんって…」 「オレは言ってないよ。」 「オレも言ってない。」 「誰の声?」 「男の人の声だった。」 4人は怖くなってその場から一斉に走り出した。 一瞬、そらが なにか形が見えたような気がして、掴まえようと手を伸ばした。 「待てっ…!」 その時、息を呑むように 「はっ…」 と、声が聞こえ、そらは手を振り払われるのを感じた。 気がついただいちは 「おい、そら、大丈夫か、なにしてるっ!」 戻ってきてそらの腕を掴んだ。我に返ったそらはハッとして、 「男だ。男の腕だ。」 「なにか、わかったのか。」 「ああ!」 「とにかくここから離れるぞ!来い!」 そらは、足が少し震えていた。
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