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馬に乗ること
息切れした4人は、住宅街を抜けて山あいの中にある交差点に来た。
あたりには中古車販売店と、ガソリンスタンド、精肉店がある。ここが4人それぞれの家に帰る分岐点である。ところが今日は誰も家に帰ろうとしない。
「こころ、大丈夫だったか?」
「全然大丈夫よ。でも、誰かにぶつかった。本当だった。なんなの、あの場所。」
「こわいよ、わたしあの場所にはもう行けない。」
「場所が関係あるのか…わからないよ。それにさっき腕を掴んだんだ。」
「え、腕を?そら、あんたずいぶん勇気あるのね。」
「腹がたったんだよ。仲間を危ない目に合わせて。」
こころは、ふと笑いだして、
「大丈夫よ、わたしは。」
「でも、ひとりになるのはこわいよ。みんなでこころの家に行こうよ。」
「ああ、そうしよう。とりあえず、落ち着こう。こういう不思議なことって、あるもんなのかもしれないよ。とにかく、こんな事はきっともう無いよ。」
4人はそこからこころの家の牧場に向かうのだった。
「おお、馬だ、馬がいる!久しぶりだなぁ。前来たときからもう一ヶ月くらいたつよね。」
新田牧場と木の看板に描かれたその向こうには、直径100メートルはあるであろう放牧地に、馬が10頭ほど放されていた。
「だいちと仲良くなった馬はあそこにいるたてがみが金色の馬よ。」
「本当だ!なぁ、そらの乗っていた馬は?」
「オレが乗っていたのは…あれだ。あの白い毛色の!オレのこと、覚えているかな?」
「大丈夫よ。絶対忘れないわ。お父さんなら厩舎に居るはずだから、乗ってもいいか聞いてみて。わたしたちはお家で遊んでいよう、かおり。」
「うん。」
胸のあたりのボタンをもじもじしながら、かおりが答える。
「かおりったらまだ怖がってるでしょう。大丈夫よ、きっと。怖かったけどね。」
「そうだよ、なんか変だよ。」
そんな事を言い合いながら家へと入っていくふたりだった。それを見送りながら、だいちは言った。
「そら、今日のことはちょっと気味が悪かったけど、そんなこともあるもんだって。明日友達に自慢してやろうぜ。オレたち怪奇現象に遭遇ってさ。」
ふたりは、厩舎にいるこころのお父さんに会いに行った。お父さんは厩舎の掃除をしていた。
「おじさーん、こんちは!」
「お、来たな。久しぶりだ。」
こころのお父さんは、馬が好きなふたりのことを気に入っていた。
ふたりを馬の所へ連れて行ってくれて、鞍を付けて、階段を持ってきて乗せてくれた。
「姿勢を正して、手綱を力まずに握るんだ。むやみに引っ張らなければ、馬たちがお前たちを遊びに連れて行ってくれる。」
要するに、じつは馬の方がふたりのことをよくわかっていて、遊ばせてくれているのだった。
彼らがゆっくりと乗馬を楽しんで、放牧地を散歩したり、寝転がって話をしたりしているうちに、あたりは薄暗くなっていた。
「そろそろ帰ろうか、暗くなっちゃう。」
「ああ。かおりは、まだ家にいるんだろう?一緒に帰ろう。」
そらとだいちはかおりを迎えに、こころの部屋まで歩いていった。すると、
「だいちー、そらー!」
そう言いながら、こちらへ走ってくるかおりとこころの姿があった。
「おう、かおり!一緒に帰るぞ!」
だいちが言うと、
「うん!あ、ちがうの!わかったの!」
かおりが返事をして、だいちの目の前に立って、
「だいち、そら。なぞの衝突事件の真相、わかったかも!」
「え?」
うしろから走ってきたこころの手には、さびれたような、くたびれた紙が一枚、握られていた。
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