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とりあえず刺客への対応は脇に置いておくとして、リンソーディアは交代のときに必ず確認するよう言われている記録帳に目を通した。大抵は『特に異常なし』と書かれているが、今回はヴェルフランドの筆跡で『錠破りのダリウスが五十七回目の脱走を試みるも地下監獄を出る前に阻止』と書いてある。ちなみにこの五十七回目という数字は、ダリウスがガイアノーゼルに収監されてからの累計脱走回数だ。
「錠破りのダリウスさんも懲りないですねえ。大人しくしていれば模範囚として刑期が縮む可能性があるのに」
「脱走というよりも、錠破りの記録に挑戦みたいなところがあるんじゃないのか。今回も自分の牢の鍵を開けて他の囚人にちょっかいかけてただけだったしな。一応あいつの監房だけ鍵を五つに増やしておいたが、奥の監房に移したほうが扱いやすいと思うぞ」
「んー、まだそこまでしなくてもいいと思いますけどねえ。単に錠破りの腕が天才的なだけで、本人の戦闘能力は並の兵士と大差ありませんし」
錠破りのダリウスは、王城兵である立場を利用して厳重に管理されていた王家の宝物庫にたびたび忍び込み、国宝級の品々を持ち出しては他国へと売りさばいていたことが発覚してお縄となった人物だ。ガイアノーゼルに来てからもその錠破りの腕前をいかんなく発揮し、脱走回数が五十回を過ぎたあたりでついに第十三監獄に放り込まれることになったという経緯がある。
ちなみにヴェルフランドが言っていた『奥の監房』というのは、地下監獄のさらに奥にある三重扉の向こう側の区画のことだ。そこは化け物級の犯罪者を封じ込めておくための特殊監房になっている。現在は誰も入っていないが、過去に二人だけ収監されていたことがあるらしい。
「とにかくお疲れ様でした。眠いでしょう、早く帰って休んでください」
大してやることのない引き継ぎ作業を終わらせたリンソーディアがそう言うと、ヴェルフランドは頑なな表情で首を横に振った。
「官舎に戻っても部屋が寒い。ここにいる」
「暖炉に火を入れたあと踊り狂っていれば、嫌でも体温が上がってポカポカになりますよ。おすすめの踊りでもお教えしましょうか?」
せっかくの提案にも関わらず、ヴェルフランドは心底嫌そうな顔で「いらん」と即答した。おすすめの踊りだかなんだか知らないが、昨日も一昨日も激しく鳥の求愛ダンスを真似ている彼女を見ているため、嫌な予感しかしないのだ。
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