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しかし悪いことばかりではない。この豪雪のおかげで、チェザリアンはあっという間に陸の孤島と化してくれたのだ。
思ったよりも早く街道が通行止めになったため、ウィズクロークからの刺客を必要以上に心配しなくて良くなりリンソーディアは安堵していた。もちろん通行止めになる前に入り込んでいる密偵やら刺客やらはいるだろうが、そう数は多くないだろう。
「看守長」
「うん?」
「フラン様の命を狙う刺客が現れた場合、返り討ちにして相手が死んだりしたらやっぱり殺人罪に問われますかね?」
ガイアノーゼル内で犯罪を起こせば、どんな軽犯罪でも第十三監獄行きの重罪とされる。やはりウィズクロークからの刺客を始末するなら、ガイアノーゼルの外でするべきか。
「……やむを得ない場合は、正当防衛が適用されるような仕方でやりなさい。間違っても過剰防衛と判断されないように」
「ううーん、その加減って結構難しいんですよねえ。今のうちに証拠隠滅の手筈を整えておくことにします」
「暗殺の玄人みたいなことを言うんじゃない」
何気に犯罪すれすれなことを話しながら、二人は一通り除雪を終えて第十三監獄へと戻る。これからセラフィーナは全看守長が参加する定例会議のため第一監獄へ向かい、リンソーディアは詰所の当番だ。カンカンと階段をおりて地下へと向かう。
「お疲れ様です、フラン様。交代です」
「……ああ」
詰所の暖炉に薪を焚べていたヴェルフランドが振り返った。宿直当番だったのである。いつもの制服の上に一枚余分に羽織っているが、彼にしてはこれでも軽装だ。
リンソーディアはコートを脱いでハンガーにかける。ボンボンに燃やされている暖炉の熱は暑いくらいだが、ずっと外にいたのでありがたいことではあった。まだ日中は気温も上がるが、深夜と早朝はこのくらいでちょうどいい。
「看守長に確認を取りました。正当防衛が適応される範囲内なら、刺客を返り討ちにしてもいいそうです」
「面倒臭いな……周りに人がいなければサクッと始末して証拠隠滅するほうが早い」
発想が完全にリンソーディアと同じだった。どうあがいても正義とはほど遠い残念な二人組である。
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