01. お前ほかに心残りないのか

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01. お前ほかに心残りないのか

 アークディオス帝国の冷酷非情な第三皇子、ヴェルフランド・セス・アークディオス。  兄弟たちの中で最も玉座に近いとされている彼のもとには、国内外から数多くの婚約者候補が日々送り込まれてきていた。しかし、やがてその行為は命がけであるということが広く知れ渡るようになる。  どんなに美女でも、どんなに才女でも、第三皇子はどの女性も決してそばに寄せ付けようとはせず、それどころか相手が気に入らなければその場で即座に斬り捨てて殺してしまうのだ。  血の滴った剣をぶら下げて、真っ赤に染ったマントを無造作に肩に引っかけて闊歩する第三皇子には、よほど親しい数人の者しか近づけなかった。  だが、そんな彼にもたった一人だけ心を開く女性がいた。  彼女の名は、リンソーディア・ロゼ・ティルカーナ。『帝国の盾』と謳われる武の名門ティルカーナ公爵家のご令嬢で、訊けば兄と同様ヴェルフランドとは幼なじみに当たる間柄だという。  よって人々は口を揃えて囁いた。第三皇子の婚約者候補として最有力なのは彼女であると――。
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