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胃災防衛庁の中央監視センターに甲高い警報音が鳴り響く。
「どうした!」
「アンガルス地方で大きな振動波を検知、まもなく胃震が……来ます!」
テーブル上に置かれたカップがカタカタと揺れ出すと、ズシンという鈍い音とともに突き上げられるような激震に襲われ、倒れたカップからこぼれ出したコーヒーが床一面を茶色く染めた。
「被害状況を確認、すぐに対象地域に避難勧告を!」
「ガストリックエリアで胃盤沈下が発生、胃酸濁流が津波となり周辺地域に被害が出ている模様です」
「すぐに救援部隊を現地へ。PPI消防隊を派遣して胃酸の分泌を抑制してくれ。血流溶岩発生に備え、シメチジン部隊の出動要請も。ぐっ……!」
「どうしました、ヒスタ長官……大丈夫ですか!」
長官は吐血するとその場にばたりと倒れ込み、気を失った。
「う……」
ヒスタ長官が目覚めると、白い壁に囲われた病室の中にいた。部下のムスカが花瓶に花を添えていた。
「お目覚めですか、長官。よかった」
「私は……?」
「急に倒れて救急車で搬送されました。連日の胃震対応で疲れが溜まっていたのかもしれません」
「それで被害状況は?」
「はい、いったん胃震は収まりましたが、被害は広範囲に渡り、復旧の目処はまだついておりません……」
「そうか、すぐにでも支援体制を整えなければ」
ヒスタ長官は点滴注射の針を外し、ベッドからすぐに起き上がろうとするとドアを軽くノックする音がした。
「長官、無理はいけませんよ。大人しく寝ていてください。吐血したので、一度詳細に検査しておきましょう」
眼鏡をかけた医師と看護師が病室を訪れていた。
「しかしこうしている間にも、胃震がまた発生するかもしれない」
ムスカはベッドの横の椅子に座ると、ノートPCの画面を見せた。
「長官、心配しなくても状況は私が観測しておきますからご安心を。まずはご自身の体の方を心配してください。それよりもご家族はどうされています? 一報してみたのですが、音信不通状態でして」
「ああ、息子は胃療軍の特殊部隊に入隊していて、忙しいのかもしれない」
「父親の急病よりも大事な事ってあるんでしょうかね」
「あいつはあいつでこのストマニア共和国を守るために必死なんだと思う。そういうところは誰に似たのか……」
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