殺虫剤とボイスレコーダーと私

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* 「逃げなきゃ!」  何もかもを放り捨てて、扉のノブに手をかける。がちゃ、とノブが回ったのに、開かない。なんでっ! 「あかない、あかないようっ」 「落ち着いて下さい紬さん、ドア押しました? 引きました?」 「押したよおおお」 「変ですね」  鷹村さんがドアノブを掴んだ。押しても引いてもびくともしない。何でだ、と再びパニックに陥った私に、鷹村さんが告げた。 「ひょっとして資材が倒れたのかも」 「うそぉ」 「以前、トイレの扉の前に置いた板材か何かが倒れて、その板材が床と全く同じ幅で、床上わずか数センチの厚みに扉の底部分がひっかかって、トイレに閉じ込められた人の話を聞いたことがあります」 「やーだ! そんなのいやだぁあ!」 「そういえば外に置いてありましたね、コンパネ」 「課長が置いたやつだああああ」 「ちっ、課長か」 「あーもおおお嫌ぁああ」 「うるさい、黙れ」 「怒った! えっ、鷹村さんが怒った!?」 「黙らないと口に靴下突っ込みますよ」 「すみません、静かにします」  黙りはしたけど、パニックが収まるわけじゃない。冷気と熱が半々に渦巻く室内で、やつを探す。ああ、もうさっきの場所にはいない。どこよ、今どこにいるのよ、と探して見つけた──自分の呼吸がうるさい。  見かねて鷹村さんが声をかけてくれた。  不安を吐き出して、少し落ち着く。    依然として蜂は旧会議室内にいた。私の、二メートルほど先くらいに。  嫌な感じで暑さが引いていく。  怖い。めっちゃ怖い。だって刺されたら最悪死ぬかもしれない。
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