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「逃げなきゃ!」
何もかもを放り捨てて、扉のノブに手をかける。がちゃ、とノブが回ったのに、開かない。なんでっ!
「あかない、あかないようっ」
「落ち着いて下さい紬さん、ドア押しました? 引きました?」
「押したよおおお」
「変ですね」
鷹村さんがドアノブを掴んだ。押しても引いてもびくともしない。何でだ、と再びパニックに陥った私に、鷹村さんが告げた。
「ひょっとして資材が倒れたのかも」
「うそぉ」
「以前、トイレの扉の前に置いた板材か何かが倒れて、その板材が床と全く同じ幅で、床上わずか数センチの厚みに扉の底部分がひっかかって、トイレに閉じ込められた人の話を聞いたことがあります」
「やーだ! そんなのいやだぁあ!」
「そういえば外に置いてありましたね、コンパネ」
「課長が置いたやつだああああ」
「ちっ、課長か」
「あーもおおお嫌ぁああ」
「うるさい、黙れ」
「怒った! えっ、鷹村さんが怒った!?」
「黙らないと口に靴下突っ込みますよ」
「すみません、静かにします」
黙りはしたけど、パニックが収まるわけじゃない。冷気と熱が半々に渦巻く室内で、やつを探す。ああ、もうさっきの場所にはいない。どこよ、今どこにいるのよ、と探して見つけた──自分の呼吸がうるさい。
見かねて鷹村さんが声をかけてくれた。
不安を吐き出して、少し落ち着く。
依然として蜂は旧会議室内にいた。私の、二メートルほど先くらいに。
嫌な感じで暑さが引いていく。
怖い。めっちゃ怖い。だって刺されたら最悪死ぬかもしれない。
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