殺虫剤とボイスレコーダーと私

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「どこよ……今、どこにいるのよ──!?」  私は旧会議室の天井を凝視した。探しているのに見つからない。蛍光灯の近く、窓のサッシ、飾られた額縁。さっきまでいたのに。そこに、いたのに。  自分で制御できなくなりそうな呼吸があっさり元に戻ったのは、同僚である鷹村友理奈(たかむらゆりな)さんの、めちゃくちゃ冷静な声だった。 「(つむぎ)さん、大丈夫ですか?」 「だいじょう、ぶ、じゃ、ないよおお」  早く逃げ出したい。閉じ込められたこの部屋から一刻も早く。  鷹村さんが私から視線を外した。一点を凝視する。  その視線の先を、私も凝視した。  蛍光灯の隅から垂れ下がる短い紐に、一匹の大きな足長蜂が、悠々と止まっていた。
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