第百三話 いつか、ここにいたあなたのために⑤

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第百三話 いつか、ここにいたあなたのために⑤

「消し滅ぼす」 ヒュムノスが招くのは無慈悲に蹂躙する雷光。 その暴虐の光は排斥の意図もろとも部隊を飲み込んだ。 崇高なる神――尊き主の御座が、罪と偽りに満ちた世界であることが許されるだろうか。 そう訴えるように――。 「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」 リディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。 たったそれだけの動作で、地面が大きく穿つ。 その凄まじさは大地が裂かれ、瓦礫が崩れ落ちるほどだ。 「みんなを守ってみせる!」 「はい、奏多くん!」 奏多と結愛は不撓不屈の意思を示す。 身体を張って前に出ると、慧達の加勢をするために動いていった。 絶え間ない攻撃の応酬。だが、神獣達は再生を繰り返す。 「もちろん、倒すことが目的でないさ。ここで食い止めることだ!」 神獣達の嘶きを前にしても、慧は恐れることはない。 そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。 七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。 「行くぜ、観月。俺達の目的を果たすためにも……力を貸してくれ!」 慧は強い瞳で前を見据える。 それは深い絶望に塗(まみ)れながらも前に進む決意を湛えた眸だった。 何一つ連中の思いどおりなど、させてやるものかと。 「もちろんよ」 他に言葉は不要とばかりに、観月は優しい表情を浮かべていた。 二人の誓いはたった一つ。 奏多と結愛を護るためにこの状況を打開すること――一族の上層部の野望を挫(くじ)くために絶望の未来になる連鎖を断ち切ることだ。 奏多と結愛の身を護るために、二人がこの現状から一歩踏み出した、その刹那―― 「レンが言ったとおり、本当にここにいたねー」 不意にこの場にそぐわない朗らかな声が響く。 慧と観月が慌てて振り向くと、そこには二つの影があった。 その一人は―― 「あ……」 紫の瞳と銀色の髪が特徴的な少女。 ドレスを思わせる衣装は青や紫色の花をあしらわれ、常に柔らかな微笑を湛えている。 「冬城聖花……どうして……」 カードを手にした観月は恐れおののくように、その名を呼んだ。 「冬城聖花が、この場にいるのは不思議な現象だな。まぁ、少なくとも本物ではないみたいだ」 そう語りかける慧は揺るがない意思を表情に湛えていた。 何故なら―― 「お初にお目にかかります。川瀬奏多様……いえ、お久しぶりです。『破滅の創世』様」 「久しぶり……?」  奏多の姿を認めてから、レンが懐かしむように恭しく礼をしたからだ。
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