第百六話 あの日、誓った忠誠③

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第百六話 あの日、誓った忠誠③

「ここはご覧のとおりの状況で、お出しできるものも乏しいです。『破滅の創世』様の記憶が戻られる特別な日に、礼儀として、おもてなしできないことが惜しいですね」 「『破滅の創世』様、待っていてね。あたし達、必ず『破滅の創世』様の記憶を取り戻すよ」 非常に温和なレンの声音に呼応するように、アルリットは喜ばしいとばかりに笑んでいる。 奏多の――『破滅の創世』の記憶が戻るのを待ちわびるように。 「どうして、ここにいることが分かったの?」 観月の素朴な疑問に、アルリットはレンに視線を移す。 「『境界線機関』を監視する一族の上層部の内密者。アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力を用いて、彼らを利用する手配は済んでおりましたので」 奏多の姿を認めてから、レンはにこりと微笑んだ。 その瞬間、『境界線機関』の者達の一部が奏多の位置を確認し、即座に布陣する。 「なっ!」 奏多は自分を取り囲む『境界線機関』の者達を見つめた。 「こいつは……!」 「……どうなっているの?」 想定外の出来事を前にして、慧と観月は驚愕する。 「ど、どうして……?」 「ほええ、大変です。『境界線機関』の人達が奏多くんを取り囲んでいますよ!」 奏多と結愛は混乱する頭でどうにか言葉を絞り出す。 「ちっ、この状況も、『破滅の創世』の配下の奴らの仕業か」 「そんな……。これも冬城聖花の能力によるものなの……」 慧と観月の反応も想定どおりだったというように、アルリット達の表情は変わらない。 「うん、そうだね。この人間の能力は便利だよ」 観月が抱いた疑問に、アルリットが嬉々として応える。 そう、便利――あるいは使い道があるとでも言い換えてもいい。 その言葉の裏には『聖花の能力には利用価値がある』という事実がある。 奏多を取り囲む『境界線機関』の者達。 彼らはみな、虚ろな眼差しで、とても正気の沙汰とは思えなかった。 聖花の能力。相手の能力をコピーすることのできるそれは、この状況下でも絶対的な強さを発揮している。 恐らくは洗脳に近い力で操られているのだろう。 「皆さん、これ以上は行かせませんよ! 私達にとって奏多くんは大切な存在です!」 「……結愛!」 『境界線機関』の者達が何らかの方法で操られている。 何とか状況を飲み込んだ結愛は勇気を振り絞り、奏多の前に立った。 「『破滅の創世』様……!」 「おっと、アルリット。それ以上は行かせねえぜ!」 そう吐露したアルリットの前に慧もまた、立ち塞がる。
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