第十一話 閉ざされた記憶②

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第十一話 閉ざされた記憶②

「あなたは初めて会うんだったよね。あの方が今の『破滅の創世』様なんだよ」 「なっ……!」 突飛な話で何を言っているのか分からない。リディアの思考が掻き乱されていく。 「ど、どうして……? 嘘、だろう……?」 リディアは混乱する頭でどうにか言葉を絞り出す。 「あの者が我が主なんて、そんなはずは……。どう見ても覇気がない。周囲の人間に対して敵意がない」 「『破滅の創世』様は記憶を奪われて、連中に利用されているんだよ。神魂の具現として、ありえざる形の生を受けてしまった存在。それがーー今の『破滅の創世』様の真実」 それは今まで信じてきたものが根本から崩れ去っていくような感覚だった。 だが、激情と悲哀、その他様々な感情が渦巻く無窮の双眸。 アルリットのその瞳が告げていた。 これらは全て、紛(まが)うことなき事実であると。 「……嘘だ。では、わたし達が探し求めていた主は……」 「今も連中に利用され続けているだけなんだよ」 かって三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』が記憶を封じられ、ただの人間に成り果てている。 かっての『破滅の創世』の姿が、唐突にリディアの脳裏を掠めた。 「わたしは我が主の無念を晴らしたい」 「あたしもそれは同じ」 リディアの宣誓に呼応するように、アルリットは一族打倒を掲げる。 そんな彼女達の前に、慧と観月は立ち塞がった。 「アルリット。今度は確実に俺を消滅させるんだろう?」 「ケイ……」 それは最初の一手から賭けとなった。 水を向けたアルリットから即座に距離を取って、慧は自らの得物を直ちに発砲する。 このただ一度の打ち合いにおいても、敵方であるアルリットが本気で攻撃した場合、慧が為す術もなく倒れてしまうことは想像に難くないと予測された。 「消滅。それはあたし達に今すぐ殺されたいって言うの?」 問題は――。 その本気に至る以前の攻撃ですら、慧と観月、そして学園内で戦っている結愛達にとっては致命打になりかねないものであったということだった。 「あたし達、『破滅の創世』様のためなら何でもするよ」 「それが何を指していようともな」 絶望的な力の差だった。 圧倒的な力量差だった。 それでも慧は握る銃の柄に力を込める。視線を決してアルリットから外さずに。 「……あいつらを見捨てる。それは、きっと。俺にとって、死よりも恐ろしいことだからさ」 強大な敵の前に死した慧にとって、それは最早揺るがない決意だった。 大切な人達を。大切な人達との未来を。最早この手から欠片も零すまいと決意した彼は、全霊を以てアルリットに弾丸を撃ち込む。 たとえ敵わずとも、その果てにある未来を手にするために――。
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