第百十話 神の花嫁①

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第百十話 神の花嫁①

「そんなことないです!」 「……結愛」 結愛が発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。 「私にとって、奏多くんは奏多くんです。奏多くんは約束してくれました。絶対に傍にいるって……。約束の力は無限大って……」 カードを掲げた結愛は一度だけ目を伏せ、そしてレンをまっすぐに見つめる。 全ての発端は強大な力を求めた一族の愚かな渇望だった。 相手の言い分が正しいことも理性ではきちんとわきまえている。 しかし、感情で納得できるかはまた別の話だった。 「だから、『破滅の創世』の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」 神と人間、この関係が正しいかも定かではない。 それでも奏多と結愛の心は今、確かに響き合っている。 人間と神が何の隔たりもなく、共に過ごしていく。 きっと、いつか夢想しただろう、そんな光景。 その儚い夢の輪郭をこの場で垣間見て、結愛は激闘の囀(さえず)りとともに震え落ちた。 「降り注ぐ、は……」 結愛はカードを振るう。ふわりと浮かび上がる氷の柱が彼女に膝を突くことを許さなかった。 「氷の裁き……!!」 氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の反攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。 カードから放たれた無数の強大な氷柱はレンを突き立てようとするが、しかし――全てが無干渉に通り抜けていく。 圧倒的な力量差の前に為す術がない。それでも結愛は思いの丈をぶつけた。 「絶対に負けませんよ! 私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」 それは今まで何度も奏多に伝えた大事で大切な告白。 それでも想いがそのまま形になるように、結愛の心にとめどなく言葉は溢れてくる。 「たとえ『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻しても、奏多くんは奏多くんのままです!」 結愛がそう口にしたのは決して確証があったから、じゃない。 奏多のことが好きだから――。 「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」 臆病に伝えた結愛の心の端を、奏多は手を繋ぐことでゆっくりと受け止めてくれる。 だけど、一歩ずつしか踏み出せないままで少しばかり、物足りなさを感じ始めたから。 結愛は伝えたい言葉にもう少しの意味を添えてみた。 「でも、奏多くん、安心してください。大丈夫です」 結愛は一度だけ目を伏せ、そして奏多へと視線を向けた。
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