第百十ニ話 神の花嫁③

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第百十ニ話 神の花嫁③

「私は最後まで諦めませんよ。だから、奏多くん、私に希望をください。どんなことがあっても、しがみつきたくなる希望を……!」 『破滅の創世』の配下達にできた僅かな隙。今はそれでいいと結愛は噛みしめる。 奏多と一緒なら、どんなに小さな勝機だって掴んでみせるから。 この世界で共に生きる道を選んでほしい。 そう願って、結愛はおずおずと奏多へと手を伸ばしてきた。 「ああ、俺も最後まで諦めない」 その手を――奏多はしっかりと掴む。繋がれた手の温もりが優しく溶け合っていく。 ありふれたこの瞬間こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。 二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。 「……此ノ里結愛さん、あなたは思っていたよりも危険な存在のようですね」 奏多が結愛を救うために割って入ってきた――。 その事実を前にして、レンの雰囲気が変わる。 揺れるのは憂う瞳。それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。 「『破滅の創世』様、この世界は最も神を冒涜しておりました。故に滅ぼさなくてはならないのです。神のご意志を完遂するために」 その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。 そう告げるレンは明確なる殺意を結愛達に向けていた。 「その人間の言葉に惑わされてはいけません。これから何をしようと一族の者の罪が消えるわけではないのです。私達が決して許さないことが、彼らの罪の証明となる」 平坦な声で、レンは結愛の決意を切り捨てる。 「此ノ里結愛さん。一族の者である……あなたが、『破滅の創世』様にそのような感情を抱くなど、あってはならないのです」 「そんなことないです! 明日、今日の奏多くんに逢えなくても、私は明日も奏多くんに恋をします! 怖いですけど……すごく不安ですけど……もう逃げません!」 レンが嫌悪を催しても、結愛は真っ向から向き合う。 「奏多くんが大好きだから!」 最後まで自分らしく在るために――結愛は今を精一杯駆け抜ける。 それは結愛なりの矜持だった。 「……分かりました。アルリット、作戦変更です」 レンが深刻な面持ちで告げる。 苦渋に満ちたその顔からは、その奥にある感情の機敏までは読みきれない。 「此ノ里結愛さん。まずは『破滅の創世』様を惑わすこの人間から滅ぼしましょう」
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