第百十四話 神の花嫁⑤

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第百十四話 神の花嫁⑤

だけど、どうしたらこの状況を改善できるんだ……。 奏多の思考の海に聞こえてくるのは、神獣の軍勢が迫る音だ。 余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。 「悪いが、奏多も結愛もおまえらに渡すつもりはないさ。ここで食い止めさせてもらうぜ!」 そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。 七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。 絶え間ない攻撃の応酬を前にして、神獣達は怯む。 だが、肝心のレン達は弾が命中する前に全て塵のように消えていった。 それでも慧達の猛攻が苛烈さを増していく。 「行くぜ、観月。俺達が前に突き進むためにも……力を貸してくれ!」 慧は強い瞳で前を見据える。 それは深い絶望に塗(まみ)れながらも前に進む決意を湛えた眸だった。 何一つ連中の思いどおりなど、させてやるものかと。 「当然ね」 他に言葉は不要とばかりに、観月は優しい表情を浮かべていた。 二人の誓いはたった一つ。 奏多と結愛を護るために、この状況を打開することだ。 「『破滅の創世』様……」 しかし、レンは慧達の屈指の妨害よりも、奏多の意向を確かめたいと願っていた。 「……今の『破滅の創世』様は記憶を奪われた影響で、一族の者に加担させられております。あの日、一族の上層部が用いた卑劣な手段によって僅かにできた隙、その隙を突かれ、『破滅の創世』様は記憶を奪われてしまったのです」 「……っ」 そう吐露したレンはただ一心に奏多を見つめる。 ――胸に抱く哀愁にも似た感情を瞳に宿しながら。 「どうか思い出してください。一族の上層部の愚行を。そして、一族の者達への憎悪を」 かって三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』が記憶を封じられ、ただの人間に成り果てている。 かっての『破滅の創世』の姿が、レンの脳裏を掠めた。 「私は『破滅の創世』様の無念を晴らしたいのです」 「あたしもそれは同じ」 レンの宣誓に呼応するように、アルリットは一族打倒を掲げた。 「『破滅の創世』様……」 アルリットは改めて、酷な現実に心を痛める。 「……辛いね」 「……っ」 そう吐露したアルリットの瞳と奏多の瞳が重なる。 その瞬間、奏多の胸が苦しくて息苦しくなる。 その感情はあの時、奏多の中で湧き上がった想いだったからだ。
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