第百十五話 神の花嫁⑥

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第百十五話 神の花嫁⑥

「それは――」 困惑する奏多の反応も想定どおりだったというように、アルリットの表情は変わらない。 「……辛い気持ちを我慢しないで。あたし達、『破滅の創世』様のためにできることなら何でもするから」 たった一つの想い。 何もかもを取り戻せるなら、アルリットはあの頃の『破滅の創世』を取り戻したいと願っていた。 奏多に――『破滅の創世』に揺さぶりをかけている。 その歴然たる事実を前にして、慧の取った行動は早かった。 「アルリット。今度は確実に俺を消滅させるんだろう?」 「ケイ……」 それは最初の一手から賭けとなった。 水を向けたアルリットから即座に距離を取って、慧は自らの得物を直ちに発砲する。 このただ一度の打ち合いにおいても、敵方であるアルリットが本気で攻撃した場合、慧達が為す術もなく倒れてしまうことは想像に難くないと予測された。 「消滅。それはあたし達に今すぐ殺されたいって言うの?」 問題は――。 その本気に至る以前の攻撃ですら、慧と観月、そして奏多とともに戦っている結愛達にとっては致命打になりかねないものであったということだった。 その時、慧は近くにあった電柱から突き刺さるような視線を感じ取る。 「……っ」 観察とも取れる不気味な監視カメラの動き。 それは――慧達が何らかの行動を示せば、全てが丸裸にされるような謀(はかりごと)を感じた。 こいつは……。 おぞましいほどの作為。 この感覚は今まで散々味わっている。一族の上層部による監視だ。 まるでこれからの対策を立てることを強調するように、アルリット達の戦いを白日の下に晒そうとする。 そんな監視下の中―― 「下らないことをするね。一族の者は」 その声色が降り注いできたのは、真に戯れであったが故か。 それとも――何か別の思惑があってのことか。 その意図を慧達が掴むより早く、アルリットは纏う空気を変える。 「全て丸見えだよ!」 勢いよく振りかざしたアルリットの右手から、今までと比較にならない規模の力が放射されて、空に巨大な裂け目を描き出した。 その裂け目から途方もない焔の塊の数々が轟音とともに地上に落下する。 その瞬間―― 「ちっ、容赦ないな……!」 「……なっ」 爆風に巻き込まれた慧と観月が目にしたのは、電柱が突き並んでいた一帯を焦土と化して灰燼と帰してしまうほどの圧倒的な強さを持つ敵の存在。 焔の塊は設置されていた監視カメラを中心にして落下し、ことごとく破壊の限りを尽くしていた。
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