第百十六話 砂時計が尽きるまで①

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第百十六話 砂時計が尽きるまで①

アルリットは、まるで最初から全ての監視カメラの位置を把握していたように猛威を振るっている。 その過程の最中で残されるはずだった監視カメラの記録は、圧倒的な威力と速度の前ではただ無為の証左にしかなりえない。 ……脆い。あまりにも。 アルリットの放った軽い打突はいとも容易く、一族の上層部の作為を粉々に砕いた。 「なんと恐ろしい……」 「監視カメラが破壊されてしまった。由々しき事態だ」 近場の電柱に設置していた監視カメラの映像から、その光景を見ていた一族の上層部の者達は眉をひそめる。 アルリットの動きは、一族の上層部の者達の想像とは一線を画していた。 「だが、既に我々は『破滅の創世』様の記憶を再封印している」 「たとえ、『破滅の創世』の配下達がカードを用いてきても、奏多様が『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻すことはない」 数多の世界の可能性を取り込んだこの世界で繰り返される『破滅の創世』という神の加護を用いた実験と解析。 その過程で顕現する『破滅の創世』の配下達という存在は、一族の上層部にとって看過できないものになっていた。 「邪魔者がいなくなったところで、改めてお伝えいたします」 レンは改めて、誓いを宣言する。 「此ノ里結愛さん。その人間は『破滅の創世』様に害を為す存在です。その人間の言葉に惑わされてはいけません」 「そんなことない! 結愛は俺にとって大切な存在だ!」 『破滅の創世』であるはずなのに、『破滅の創世』の配下達と分かり合えない。 奏多とレン達を隔てる、たった一つの最も重要で決定的な要素。 その要素は……『失った神としての記憶』だ。 その記憶には、一族の上層部が犯した罪過への『破滅の創世』の憤懣がある。 ましてやそれが延々と折り重ねった憎しみに起因するものであるならば、もはや激昂に近いかもしれない。 『破滅の創世』である奏多であればこそ、その怒りを身に染みるほどに理解している。 何度も神としての憤りに――絶望視した過去に囚われてしまうかもしれない。 それでも……諦めたくない。 結愛と……みんなと共に生きたい。 奏多は現実で踏ん張ると決めている。 奏多が人として生きた人生という道を、『破滅の創世』は否定なんて出来ないはずだ。 「それに人間として生まれたことを過ちになんてしたくはないから」 言葉は、言葉にすぎない。 約束なんて言葉は特に曖昧で、時としてたやすく霧散してしまう。 それでも二人で歩む未来はこれからも続いていくと、あの時、結愛と交わした甘く確かな約束を求めて。 その時、心中で無機質な声が木霊した。
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