第百十七話 砂時計が尽きるまで②

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第百十七話 砂時計が尽きるまで②

『人の心など不要なものだ。愚者を守る必要などない』 分かっている。 人は、永遠ではない。 そんなことは分かり切っていることなのだけど。 それでも。 それでも―― 「どんなことがあっても、俺は結愛と交わした約束を『信じている』」 言葉は所詮、言葉だ。音の波は空気に触れれば溶けていく。 それでも奏多はここで終わらせたくない。 そう強く願った瞬間の想いはいまだ胸の内でくすぶっている。 熾火のように燃え尽きず、赤々と熱するままに己を昂らせていた。 「ずっと傍にいるって約束したからな」 「ふふ、言いましたね、約束の力は無限大ですよ!」 ありふれた何気ない日常こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。 二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。 「それに俺は、結愛と――みんなと離れたくない。自分自身の手でこの幸せを手離したくない」 奏多は信じている。自分自身の力と未来を。 人は自らの足で歩いている。独りではなく、手を取り合って。 「結愛達とこれからも一緒にいたい。痛くても苦しくても怖くても、この感情から逃げたくないから」 奏多は聞いていた。数多の旋律を束ね、神奏を天へと放つ。数多の人々の想い。その旋律は永久に紡がれるはずだと。 「結愛は俺にとって大切な存在だ。絶対に守ってみせる!」 奏多は不撓不屈の意思を示す。 結愛を守るために身体を張って前に出た。 「奏多くんが守ってくれる……」 奏多の名を口にするだけで愛おしさがこみ上げる。 同時に切望する思いが広がった。 奏多に伝えたい想いはたくさんある。これから長い時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。 「あの、あの、あのですね」 「結愛……?」 その時、結愛が真剣な眼差しで奏多のもとににじり寄ってくる。 そして、顔を上げて願うように言葉を重ねた。 「……奏多くん、これからも好きでいてくれますか? もし、神様の記憶を完全に取り戻したとしても……あの、あの、私のこと、好きでいてくれますか?」 「当たり前だろ」 奏多が発した言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。 「はううっ。……もう一回、もう一回!」 妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。 「今のって、当たり前だろ、ってやつか……」 「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」 「当たり前だろ」 「きゃーっ」 張り詰めていた場の空気が温まる。 この瞳に映る花咲く結愛の笑顔が春の温もりのように感じられて。 奏多は強張っていた表情を緩ませた。
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